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□GOOD NIGHT AT EVERY MORNIN'
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朝、俺が目を覚ますときに、お前が隣にいてくれると嬉しい。
目を覚ましても
夢を見たままでいられるから。
【GOOD NIGHT AT EVERY MORNIN'】
「なぁ跡部。お願いなんやけど、明日は俺より先に起きんといて。」
「…低血圧の人間が人に頼めることじゃねェだろ、それ。」
もう夜も更けた頃、いつものようにベッドに潜り込んだ忍足と跡部は仰向けに天井に視線を向けたまま、他愛もない会話をしていた。
二人が身を沈めたベッドは跡部の特注品で、大柄の男二人が伸びをしたって縁からつま先が飛び出すことがないほど広い。まさにキングサイズである。
ときどきこうして泊まりに来る忍足は、これほどの物はないと、このベッドをいたく気に入っていた。曰く、このベッドの上で何もかも終えた後には安眠が約束されているとのこと。
もちろん言うだけのことはあって、次の朝彼が自ら目を覚ますことは皆無に等しい。その事実を知った跡部は、めったに忍足をこのベッドに呼ばなかった。
理由は明白で、ただ学校に遅刻されては困るのである。テニス部部員はレギュラーのポジションも素行の良し悪しに左右される。監督は技術にも増して規律を重んじる厳しい人だった。これまで何度忍足が監督のチェックを受けているか跡部に解ったことではないが、ジローでさえ遅刻はしないのだから(さぼっているも同然だが出席率はいやに高い)、もう少し自分の立場も考えるべきである。
しかし跡部がいくら叱ってみても本人は低血圧やから、の一点張りだった。部の頂点に立つ跡部まで忍足のせいで遅刻はできない。
だから、忍足と過ごすたまの朝は一緒に登校したりしない。
必ず置いていく。放置。
人が何といおうと、己の恥には代えられないんだ。
恋人と遅刻だなんて。
今日は土曜日。明日の予定は今のところ、無い。
「えぇやん。明日部活ないし。ゆっくり寝とってもばちは当たらへん。」
「だからって待ってられるかよ。」
相手の都合がどうであれ、それに振り回されるのを跡部は嫌う。うんざりしたように背中を向ける彼に忍足は食い下がった。
「お願い。お願いします。」
妙にしんみりとした忍足の言葉を背中で感じながら跡部のこころは揺れ動いた。
「フン、いつもはそんなこと言わないくせに、何でそんなに俺に待っててほしいんだよ。」
「…跡部。」
もったいぶった言い方が気に障り思わず身体を反転させて振り向くと、すぐ目の前に忍足の顔があった。互いに互いの瞳しか目に入らないその距離のせいで跡部の心臓は高鳴った。
「だって嬉しいやん。朝目が覚めて、隣にお前がおってくれたら…俺はめっちゃ幸せなんやで?」
ふっとほほえんだ顔があまりにも近く、跡部は忍足に見惚れ、緊張し、何も言えなかった。
「せやから、先起きたからって俺を起こすのは無し。な?」
そう言うと、隠れた布団の中で忍足の手が跡部の手を優しく包み込んだ。直に感じる相手の温もりが心地好い。忍足の顔は本当に嬉しそうだった。彼が平気で恥ずかしいことを言うのは跡部も知っていたが、ときどき、本当に心をつかまれてどぎまぎしてしまうことだってある。今も跡部はなんだか恥ずかしくて、無意識に泳いでしまう視線を忍足に合わせられずにいる。
「わかったよ…ほら、寝ようぜ。」
「うん。きっと、約束やで…ほな、おやすみ景吾。」
「おやすみ。」
最後は照れ隠しに終わってしまったけれど、忍足の腕に抱かれて、まんざらでもない跡部様でした。
END.
あとがき
幸せっ♪てこんな感じ?
べ様はサボるくせに出席率が高いジローの素行を根にもっているのか・・・?
お読みいただきありがとうございました。
結花