□追走
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君を追う。


追いながら、


いくつもいくつも
玉となって溢れだす汗が憎たらしいと思った。


暑い。


「ーッ暑いんだよ!ちくしょ〜」


何処かで宍戸の声がした。


何処だろう。


いや、何処でもいい。


今はただ、君の背を


君だけを追いたかった。


「侑士!」


「岳人、なんや今日はえらく調子ええな。いつもならバテバテのとこやけど。」


「つってもまぁ最下位だけどな!」


そうなんだ、オレたちはいつだって皆の背中を追いかけてきた。もともと体力のないオレが外周を走らされて最下位になるのは当たり前で、だけど負けたくなくて毎回一生懸命走っている。

こうしていると思い出す。

あの日も俺は走ってた。まだ冬で、自分の吐き出した白い息が肩を通り過ぎていくのを見ながら、やっぱり息を切らしていた。こんな自分が情けなかった。前を走っていた先輩の影も、もう見えない。この名門氷帝テニス部に入部してからというもの、一度としてビリを脱したことがなかった。どうしようもない。なぜかいつも最終的にそうなってしまうのだ。

ふいに自分の鼓動が耳を支配し、膨れ上がる圧力が脳ミソを押し上げて痛みが生じた。そうして苦しさに走ることを諦めかけた瞬間に襲ってきたのは、ダサい倦怠感だった。

足取りが重くなる。

踏張っていた足裏はまるで軟らかくなった。

膝が
ゆるくなる。


「…、」


自分の鼓動の音で気が付かなかったが、誰か、別の足音が後ろから迫っていた。


「……」


明らかに軽快な走りをしているのは音でわかった。確実にオレとの距離を縮めて来ている。


気が付くと、

オレは、また走っていた。


負けたくないんだ、まだ。

勝ったこともないけれど。

きっとオレは恐れているんだ。

後ろから迫ってくるそいつが、恐い。

オレをおいて行ってしまった先輩の背中より、多分ずっと。

そいつはオレを食べてしまうに違いないから。


オレは、必死になって

牙から逃れて生きようとする羊のように、

あさましくも

走り続けていた。

食われて終わる夢なら見なくていい。

そんな台詞さえ心に浮かんだのだ。




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