□NO TELLING ABOUT TOMORROW
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明日が来なければいい。


そう願うことに意味はない。人は意味のないことに意味をつけたがるものだから、この気持ちがどう他人に呼ばれようと関係ない。俺自身が気が付いているからいい。






意味がないんだ。



【NO TELLING ABOUT TOMORROW】




「自分、結構つまらないこと気にするんやね。」


そう言われると、そうかもしれない。明日は必ずやって来るとは限らない、と言いたいらしい。


「お前に関係ない。」


「そ?」


「ああ。俺の意見なんて、本当に・・・」


「本当に、何?」


「お前には関係ない。」


どうしてこんな話題になったのかなんて今更思い出せない。3歩も歩いていないのに不思議なことだが、それは無駄な緊張と、昂ぶる気持ちのせいだと思う。

そして俺をそんな気持ちにさせているのは、この男とこんな風に面と向って話をしたのが初めてだからに違いない。



自分は
この男に好意を抱いていた。



自分はそういう気持ちに気付き受け入れていくのにさして時間をかけない。ただそうして生まれた、一切の不純物を含まない無機質な心がどうされるわけでもない。自分は寧ろその激情や熱情とは程遠い、精製された無色透明な薄いガラスが、今この瞬間、夕焼けに鮮やかに色づいていくのを遠くで見つめているに過ぎない。



真っ赤に染まったガラスにベールを。 



俺はその場をあとにしようとした。



「あれ、跡部君、もう部活なん?」


「当然だ。そういうお前こそいい加減にしないとレギュラーから外すぞ。」


「そんな〜」と間抜けた声が背中を追う。


そうして
思い出した。


どうして明日が来なければいいという考えに至ったのか。


なぜこの男と真っ赤な夕日で染まる放課後の教室に二人きりでいるのか。



『明日がこなければええのにね。』



そう言ったのはこの男だ。部活を3日も無断欠席した理由を問いただして、そう答えが返ってきたのだ。正直意味が解らなかった。第一、俺がそっくりそのまま言ってみたところでさも俺をつまらない男のように言うのは矛盾している。ただこの男に対して、やはり興味を抱いていることにはかわりは無かった。


ベールに包まれたガラスは色づきを忘れ、闇を飲み込む。


しかしそれでもその形は変わらないだろう。
熱にも負けない強化ガラスなんだ、と自負できる。


「明日は、どうであれ、必ず来る。」


立ち止まった俺が放った言葉は、この男にどれほどの威力で届いただろう。


「例えお前の為じゃなくてもな。」


「それって…」


忍足が身を預けていた机から立ち上がるのが音で解った。


「それって、つまり跡部君の為に来るってこと?」


「当然だ。」


俺様は肩越しに振り返り、呆然としている男を鼻で笑ってやった。今の俺はさぞかし、自信過剰に、不遜に見えるだろう。だが逆光の影の中で浮かびあがるヤツの顔は、俺にとっては腹を抱えたくなるほど面白いものだった。



なあ、


お前に聞きたいことがあるんだ。



「ちょっとは賢くなったんじゃねぇの?アーン?」


「跡部君てさ、」


「なんだ?」


「自分ンこと、信じすぎや。」



ふと笑顔を見せたお前に他意がないのは解っている。だが、お前は何か勘違いをしている。



「…フン、ばーか。」



ちゃんと見ろよ、俺のこと。



「俺様を誰だと思ってやがる。」



そう、俺は明日が来なければいいなんて思わない。



二度と。



俺は、俺の為に来る明日を変えてみせる。



そして、お前に二度と明日が来なければいいなんて言わせはしない。



そんな意味が無いことは、やめてしまえ。



やがてくる夕焼けに



お前の心を染めてやる。




真っ赤に。





END.

























あとがき

筆入れたので今更ながらあとがきを書いてみる。(果たして今はいつでしょう←)

この話もよく解らん話です汗
自分で書いておきながら何なんだ、という話ですが。

日に染まるガラス、は自分で割りと多用する表現だなーと振り返ってと思いました。なんでかなと考え。ガラスの中で篭るなまあったかい空気とか、それが冷えて、しん、と匂いだけ残る感じとか、色々見えるもの以上に比喩として思うことがつきぬわけです。どんなよ。

お読みいただきありがとうございました。

結花

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