ミカガエ
□お題『寒い日にマフラーや上着、手袋を貸してあげる』
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「っくし」
「アンタ大丈夫?」
「…平気だ…グスッ」
「全然大丈夫じゃなさそう。その図体に合うジャケット、やっぱり間に合わなかったんだ」
「…もう少し環境に融通がきけばな…」
「て言ったってこのコロニーがもうすぐ夏なんだし、いちいちそんなこまめに切替してらんないんじゃないの。
まあ昭弘とかシノがすぐ脱いでるから気温とか考えるのつい忘れるけど、寒いんだこれ」
「その中にお前も含めろ。そんなタンクトップとジャケットだけの薄着でよくしれっとしているな。
コロニー内でまで季節を感じることになるとは思わなかった…というか地球ほど四季などないんじゃないのか?」
「雨降ったくらいで…そんなに寒い?」
「寒い。予備くらいあればよかったんだが」
「オルガくらいしか必要ないから、作る時に要らなかったんでしょ」
「…全くな」
「着る?俺の上着」
「!いや…気持ちはありがたいが、お前のそれのどこに入ると思っている?
お前にとっては1か2サイズ上なんだろうが、それでも丈が足りない」
「だろうね、言ってみたけどやっぱり」
「お前な」
「じゃあ、はい手袋」
「は?」
「冷えるかもって聞いたからポケットに突っ込んであったんだけど。
地球で雪の中移動する時にってもらったやつ」
「…これなら、あるいはギリギリ…
いや、やはり入らん」
「そっか」
「悪いな」
「それはいいけど…何か買ったら?ジャケットはともかく手袋くらい」
「いや、この1度のためにそんな馬鹿げたこともしたくない」
「そう?アンタ、金持ちだったんでしょ?そういうの買うのも躊躇ったりするんだ」
「そういう、時期もあったが…三日月、お前だって知っているだろうが。
今の俺が自由にできる金などたかがしれているんだぞ」
「ああ、まあ俺と同じくらいだっけ」
「そうだ。だからこれくらい我慢するに限る」
「でもいつか必要になるかもしれないし」
「その時は予めオルガに経費で手配させればいいだろう?」
「意外とせこいね」
「何とでも言え。どうせ金を出すのなら、またお前と何か食べに出る方がいいからな。
あれは楽しかった」
「ふーん…」
「ん?なんだ、わざわざ回り込んで」
「だって俺、まともに動くの左腕の方だし」
「?だから何故
…!」
「握ったら少しはマシだろ?」
「…ああ、急に寒さが気にならなくなった…」
「それは大げさ」
「大げさじゃない。温かいしその、礼を言、…違うな、ありがとう」
「良かったね。じゃあ行こうか」
「ああ、取引相手はこの先か」
「ん」
「おい昭弘、堂々と道の真ん中であんな真似しやがってるあのバカどもに、俺の上着投げつけて来てくれねえか…!」
「お前はいいのかオルガ」
「あんなの見せられて寒いわけねえだろ」