箱庭

□死にかけのボクはいつも箱の中
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放課後。




立ち入り禁止の屋上に登り、下校する皆の背中を眺める。







サビたフェンスの向こう側。





そこに俺は、行きたくて仕方がなかった。



すでに死にかけの俺は、死にたくて死にたくて仕方なかった。






「真っ赤なお鼻の〜♪」






歌が聞こえる。




まだ9月で、冬には早い。



なのに この曲…。






歌の主を探す。



右、左と見て、もう一度右を見る。



注意のためとかじゃなくて、あまりに意外な所にいたため、気付かなかった。




1、2メートル先に、同じクラスの女子が1人、立っていた。



しかもそれは、




  フェンスの向こう側







「なっ何してんだよぉ…!!!!」



「でもっその年のー、クリスマスの日〜♪」






聞こえなかったのか、彼女は歌い続ける。






「……なっ何してんだよぉ…!!」



「聞こえてるわよ。ごめんなさい、2回も同じこと言わせちゃって。

 えっと…ごめん、私 目悪くて…誰かなぁ…。ちょっと待って、そっち行くから。」



「いや来るな!!じゃなくて動くな!!!そこでジッとしてろ!!」



「えっ何?ごめんなさい。私耳も悪いのよぉ…」






困った顔をしながら、1歩2歩と彼女は歩く。






「最初のは聞こえてたんだろ!?なんで急に聞こえなくなんだよ!!

 いいから、そこにいろって!!!」



「ごめんなさい、2歩動いちゃったわ。戻るわね?」



「いいよ!!頼むから動かないでくれよぉ!!!」






たった15センチほどの幅を、彼女は廊下でも歩くように、こっちに向かってくる。



フェンスを掴むでもなく、悠然と、髪をいじったりしながらだ。






そして彼女は、俺のフェンスを握っている手と重なるように、フェンスを握る。






「あら、あなたは同じクラスの“信長 笑太(ノブナガ ショウタ)”君?」



「お前は同じクラスの!…えっと…アレ…?」



「私の名前を覚えてないってことは、信長君は男に興味があるのね。」



「何でそうなる!!」



「女子の名前を覚えないのは、男の方が好きだからよ。」



「絶対違うだろ!?」



「え?だって信長君、羽坂君と仲良しじゃない。」



「友達だよ!!お前どんな目で見てんだ!?」



「ごめんなさい。私、腐ってて…。

 私ったら この前、信長君が先生(男)に怒られてる時も、そんな目で見てたのよ。」



「ねぇ本当にどんな目!?」





いや、こんな やり取りをしている場合じゃない。





話している感じ、自殺じゃないようだ。



でも早く この子をこちら側へ来させないと、大変なことになる!!






「君、こっち来て!!」



「行きたいのは山々なんだけど、行き方を忘れてしまったの。

 というか、正直なところ、こっちに来れたのも何でか分からないのよ。」



「すげぇなっ!!」



「ヤダ…褒めないでよ…///」



「照れんな!!!お前のその空っぽの頭が、すげぇっつったんだよ!!」



「ごめんなさい、私耳が悪いの。」



「さっきも聞いたよ!!てかソレ絶対嘘だろ!」



「…なんか…飛び降りたくなってきちゃった…」



「ごめんなさい!!俺が全て悪かったです!!」



「あら、認めるの?男が好きって。」



「そんなこたぁ〜、一言も言ってねぇだろ!?」



「照れ屋さんねぇ。隠さなくてもいいのに。私はあなたの事、全部知ってるわよ?」



「あなたは魔女か何かですか!?」






結局 彼女に流される。


きっと最初から、彼女なんて助けようとは思ってないんだ。




俺はただ、自分より先に逝って欲しくないから…






「…お前…何でそんなとこにいんだ?自殺する訳じゃねぇんだろ?」






彼女は夕日をバックに、クスリと笑う。


さっきまで真っ黒だった髪が、太陽の光で透けて、茶色くなる。






「さぁね。きっと…あなたと同じよ。」






何でもお見通しというような顔で、彼女は俺を見ている。



夕日のせいで、俺の心も透けてるのか?




違う。

そんなはずない。



この女はただ、分かったフリをしているだけ。






「…あっそ。分かりましたよ。」





俺はクルリと彼女に背を向ける。





「あら…行ってしまうの?つまらないわねぇ…。

 あっそうだわ?あなたもこっちに来ない?」





彼女は手招きする。





「…何で?あんた一体、何がしたいの?頭イカレてんじゃない?」



「だったら あなたもじゃない。来ないの?ここにあなたの望むモノがあるのに?」



「…その先に…望みなんてない…。」



「でも、あなたは求めてる。そうでしょ?信長君。」






馴れ馴れしく俺の名を口にする彼女の唇は真っ赤で、見覚えがなかった。






こんな女、クラスにいたか…?



大体、何で俺、同じクラスの女子だって思ったんだろ。




名前を、いつまでも思い出せないのに。





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