箱庭
□5月6日の少しの幸せ〔狂い人より〕
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「フーちゃん知ってた?昨日って子供の日だったんだよぉ?」
「ほぉー、そうか。
でもだからって、許さないからな?」
「ぷ〜!意地悪ぅ!!」
キララはストローをくわえ、ブクブクとサイダーを泡立てた。
昨日は子供の日だった。
しかしキララと映画を見に行く日でもあった。
僕が本当に、見たくて見たくて、たまらない映画だった。
…なのに、このバカは…
すっぽかしやがった
約束の時間は午後1時。
こいつが起きたのは午後10時。
…なんじゃそりゃ。
1人でもう見てしまおうとも思った。
しかし、もし遅れてコイツが来たら…何をされるか分かったもんじゃない。
なので俺は待ち続けた。
そして10時半。
電話がきた。
『おー、フーちゃん?今何してんの?
暇だったらさ、テレビつけて見てよ。面白いのやってんのぉ♪(爆笑)』
かなり軽かった。
スズメの羽ぐらい軽かった。
一番ムカついたのは(爆笑)ってところだけど、とにかくムカついた。
かれこれ、9時間半も待ち続けている事を話すとキララはこう言った。
『にゅ?約束したっけ?ゴメンゴメン、今寝ぼけてて。そう言えばしたかも。わりぃ。』
軽い。
軽過ぎる。
映画館の前で、1人立ち尽くし、自分が見るはずだった映画のパンフレットを持って、笑顔で出ていく人々を何人も見た。
それでも我慢した。
なのにこいつは…
“わりぃ”って…
軽いとかそう言う問題ですらねぇ…!!
謝る気が最初からないのは分かる。
でも少しくらい哀れに思ってくれてもいいじゃないか…!
せめて同情してくれてもいいじゃないかぁ…!!
いや本当…悲しいってマジで…
時は金なりなんてレベルじゃねぇよ…
悲しすぎて、昨日は泣いた。
キララは結局、テレビを見て笑い続けていたらしい。
許せる訳がない。
「お前は、俺が可哀想とか思わないのか?」
「うぃ?そっかぁ。フーちゃんは同情して欲しいのかぁ。」
「というか…なんでもいいから情が欲しいんだよ…。」
「ほぇ?なら、あげてるじゃん。」
「?…あぁ…分かったような気がする…。」
頭を抱える。
こうしてキララと話すのが嫌になる。
はっきり言って嫌いだ。
大嫌いだ。
不潔でマイペースで単純で我が儘で、そして僕のことを誰よりも好きなバカ。
嫌いじゃない訳がない。
「ねぇ、フーちゃん。ちなみに今日は何の日か知ってる?」
「はぁ?今日?…いや…知らないけど…。」
「じゃあ教えてあげよっか。」
「…別に…いいよ。どうせ、ろくでもない事だろうし。」
「…そっか。死んでも知らないよ?」
「そんなに重大な事なんですかぁ!?」
「当たり前じゃん。フーちゃんがモテないことと同じくらい当たり前だよ。」
「お前に何が分かる!」
「まぁまぁ、それはどうでもいいからさぁ…。」
そう言うとキララは手を上げた。
「すみませぇーん。チョコレートパフェ1つ下さぁーい。あっあと、このリンゴパイも。」
「かしこまりました。」
いつの間にかウェイトレスが横に立っていた。
「ちょっ…!お前っ頼み過ぎだろ…!!」
「えー?ちゃんと全部食べれるよぉ?」
「それは分かってる!ただ俺の財布の心配もだなぁ…」
「あっあとぉ、イチゴのかき氷もお願いしまぁーすぅ♪」
「かしこまりました。」
「かしこまらないで下さい…!!かき氷だけでお願いします…!」
「え〜…パフェとパイはぁ〜?」
「もうアイスケーキとイチゴのパフェ食べたからいいだろ!!」
「あとぉ、チョコレートケーキとぜんざいとぉパンケーキも食べたよぉ♪美味しかった♪」
「そりゃ良かったなぁ…もう満足だろ…。」
「まだまだだね。」
「チェストぉ〜!!」
キララの頭を思いっきり叩く。
キララが机に頭をぶつけて痛がっている間に、
「イチゴのかき氷だけお願いします!!」
と言ってウェイトレスを追い払う。