箱庭
□貴方がいてくれたから
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人間はいつか死ぬ。
でも貴方は違う。
いや、貴方にも死は訪れるのかな?
その体がガラクタと化した時、それが貴方の死なのかな?
だったら一緒に死ねるかな?
私がよぼよぼのおばあさんになって、いつまでも変わらない貴方が横にいて、そして私の寿命がきて…それで一緒に、貴方は死んでくれるかな…?
「アキ!アキぃ…!!」
体を揺すられているのに気付く。
それと同時に全身に寒気と激痛が走った。
そしてヒヤっと、自分の死期を感じ取った。
ふつふつと、じりじりと、その影は迫っている。
死んだらどうなるのかな?
なんて、考える余裕はなく、私の中には恐怖だけがあった。
どうして飛び出しちゃったのかな…
昔の私だったら、絶対にしなかった。
子供なんて、好きじゃなかったもん。
大体、何で道路に飛び出すかな…
ちゃんと、車が来てるか確認しなさいよ…
だから子供は…なんて思って目を開くと、泣きそうな顔をしている春希がいた。
もしかしたら、泣いているのかもしれない。
ただ、彼には涙を流すことが出来ないだけ。
悲しい顔をしている春希に、私は一体何を言ってあげればいいのかな?
今、死ぬのが怖いだなんて、口にしちゃダメだよね?
「はぁ…はる、きぃ…?」
「アキぃ!!」
なんだか、名前を呼び合うのって恥ずかしいな。
痛みが段々鈍くなって、寒気が強くなってきた。
時々、目がかすむ。
でも瞬きして、そのまま死んでしまったらと思うと、瞬きするのも不安でたまらない。
私が先に動かなくなるのは、分かりきっていた。
けど、こんな突然やってくるなんて、どうして予想できる?
きっと、族のクイーンなんかやってたから、バチがあたったんだ。
せっかく抜けたのに、それでも駄目だったの…?
「アキ、痛いの…?」
眉を八の字にして、私を見つめている春希。
そんな表情すら絵になる彼に、私は目を細める。
「大丈夫…痛く、ないよ…。」
痛くはない。
ただ、悲しいだけ。
春希と2人で、ベランダの大きなマンションに暮らして、毎日これでもかってくらい、幸せに暮らすのが夢だった。
ベランダで花なんか育ててさ、一緒に水をやるんだ。
雨の日にまで水をあげちゃって、絶対枯らしちゃうの。
そんで今度こそはとか言って、また花を植える。
たくさん、たくさん、愛してるとか言いあって、笑って、ケンカもして、楽しい日々を送るんだ。
でもそれは、もう叶わないんだね―――
すっと、私の目尻を春希がぬぐう。
そしてやっと、自分が泣いていたことに気付く。
春希が出来ない事は、なるべくしないようにしてたのに…。
急に息が苦しくなる。
体の感覚は、もうとっくに無くなっていた。
嘘、死んじゃうの?
本当にこれで最後なの…?
「やだ、よぉ…死にったく、な…」
彼を独りにしたくない。
彼を孤独にしたくない。
私も独りに、なりたくない―――
泣きじゃくる私を、彼はそっと抱きしめてくれた。
崩れないように、壊れないように、そっとそっと、大切に。
まだ、触れた事のない彼の唇が、ゆっくりと動く。
「アキ、愛してる。」
そうして私達は、初めてのキスを交わす。
熱くて甘くて、ほんのりしょっぱい。
あぁ、私は本当に、春希が好きなんだな…
そんな事を思いながら、私はゆっくりと目を閉じる。
そして私は、彼の優しく温かい腕の中で、静かに静かに、眠りについた。
end