本編

□君に捧ぐ花
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「別にいーよ、気にしねぇからさぁ。

 で、あんた名前は?」


「あっ、な、直人だよ。君は?」


「俺はさっきまで無かったんだけど、今コレ見て決めた。」




少年はポンと、俊の墓に手を乗せた。




「俺の名前は“俊”だ。よろしくな?」




キラキラと輝く笑顔。



きっとこの子はこの墓に刻まれている“岩泉 俊”という字を見たのだろう。



俊、君の名前 気に入られたみたいだよ?良かったね。

なんて、少し君をからかうように心の中で呟く。



けど、本当は笑えなかった。


多分 自分は今、物凄い苦笑いをしているだろう。




「そうか、俊君か。」


「おぉ。なぁ、ナオトも1人なんだろ?」


「うん、そうだね、1人だよ。」


「じゃあさ、俺と一緒にいろ!」


「え…?」




物凄い命令口調にたじろぐ。




「えっと…俊君、君は何処から来たのかな…?」


「この丘をずっと下りてって、奥に林があって、その手前に教会があんだ。

 まっ、ここに来れる度胸があんのは、俺くらいだけどな。」




エッヘンと、少年は腕を組んで、胸を張る。


本当にまだまだ子供って感じだ。




「じゃあ、戻ろう?こんな所にいちゃ危ないからね。」


「どうして!?ナオト…俺のこと、嫌いか…?」


「いや違うよ、そうじゃなくて…」


「じゃ、いーじゃん。このまま、どっか行こぉーぜ?」


「ダメだよ。誰か心配してるかもしれないし…」


「心配?そんなの絶対ねぇよ…。」


「え…」



「俺…あそこヤダ。ピアノはあるけど…他に何もないんだ。

 冷たいんだよ…。」




一瞬“寒い”を言い間違えたのかと思ったけど、“冷たい”という表現は、彼の感じた教会のイメージなのだろう。


だとすると知りたい。


君が、そう言う訳を。




そして、俊もそう思っていたのか、また俊がどういう場所で育っていたのか。


もちろん、その教会とは限らないけど、でも、俺を動かしたのは、今はいない君の事をもっと知りたいからという欲求だった。




「俊君、一緒に教会に行こう?

 大丈夫、俺がついてるから。」




その言葉を聞いて、少年はゆっくりと頷いた。





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