本編

□君に捧ぐ花
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「俊。花、持ってきたよ。」




俺はそっと、俊の墓の前に花を添えた。





彼が死んで4年が経った。


彼との思い出は、今も忘れる事なく心に残っている。




「今日は風が全然吹かないな。崖の上にあるってのに。目の前は海だぞ?おかしいよなぁ。

 いつもならビュービュー吹いてんのに…。」




供えたバラの花束を少し弄ると、パラパラと花弁が数枚落ちた。


君に似合う黒い花がなくて、こうしてワイン色のバラを持ってきたけど、少しキザっぽいかな。




「あっそうそう、なぁ俊聞いてくれよ。

 医者に戻ったはいーけど、夜がキツイんだよ…。

 いい女もいないし、彼女も出来ないし…。」




1人でしゃべってて、ちょっと虚しく思えてきた。



そこに俊がいるのか、いないのかも分からない。


でも、きっといるって信じてしゃべってんだけど…




「俊、やっぱり俺、寂しいよ…。」




俺は顔を腕の中に埋め、呟いた。




医者に戻れたし、仕事も楽しいけど…寂しい。


家に帰ってドアを開けても君が「おかえり」と言ってくれないのが、苦しい。



それでつくづく思うんだ。


自分は独りだって。



そして、泣きそうになる。




「はぁ…俺ってやっぱり泣き虫だ…。」




そう呟いてすぐ、ビューッと強い風が吹いた。



俺は思わず、顔を上げる。




  「あんた、1人?」





墓の後ろから、声が聞こえた。


とても幼い声。




ゆっくりと墓の後ろを覗いてみる。

と、そこにはポツンと、少年が墓に背をもたれながら座っていた。



少年は俺にニッコリと笑いかける。




「俺も1人なんだ。」




10才くらいのその少年の髪は黒く、目が少しつり上がっていて、何処と無く俊に似ているような気がした。



胸が疼く。




「こ、こら!そんなとこにいたら危ないよ、こっちにおいで?」


「へぇーい。」




軽く少年の手首を引っ張る。

思ったよりも細く、そして着ている服がボロボロなのに気付いた。



墓の前に少年を立たせ、同じ目線になるよう、膝をつく。




「お父さんと、お母さんは?」


「さぁ、見たことない。俺、赤ん坊の時に教会の前に捨てられてたからさ。」


「あ…」




まるで俊みたいだと思った。


見た目も、境遇も似てるなんて、もしかして本当に君なのかな。



生まれ変わりなんてのを初めて信じようとして、やめた。



だってまさか、そんなの有り得ないじゃないか。





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