本編
□第十三話
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しっかり厚着をした君と、そんな君と手を繋ぐ俺。
桜の木の前に2人で立ち、2人で桜の木を見た。
木には雪が積もっていて、真っ白だ。
木から雪がパラパラと落ちた。
それはまるで、桜の花弁のようだった。
「あの時を思い出すね。」
俺は俊を見た。
俊はジッと、桜の木を見ている。
その目は暗く、悲しい目だった。
君は今、何を思っているのだろうか…。
「あの時、直人これ見て言ったよな。」
「あぁ、“綺麗だなぁ”って?」
「そう。で、俺が“そうか?”って言った。
俺、本当はその時、キレイだって思ってたんだ。
けど…言えなかった。」
そんなの分かってた。
言わなくたって、分かってたんだ。
どうして、いつだって素直じゃない君が、今になってそんなことを言うのか…。
嫌な予感しかしない。
「紅葉も見たよな。あれは公園だったな。」
「うん。紅葉も綺麗だったよね。」
「あぁ…キレイだった…」
会話が途絶える。
2人は、黙って桜の木を見つめる。
ここは墓地の側の駐車場だから、回りに人はいないけど、いたらきっと変な人がいるって思われただろう。
だって黙って、男2人でジッと、桜の…しかも、花なんて咲いてなくて、雪が積もってるだけの木を、見ているんだから…
急に俊が歩き出した。
何処に行くのかも告げられずに、俺は黙って俊の後ろを歩いた。
本当は
行く場所なんて
分かってたのに