本編

□第十二話
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「もしもし?」



『………』





受話器の向こうから、微かに荒い呼吸音が聞こえる。


やっぱり、いたずらのようだ。



ため息をつき、電話を切ろうと、耳から受話器を少し離した時、声がした。



その声にハッとして、急いで受話器を耳にあてる。





『俺だ…』





いたずらでも、詐欺でも国見でもない、俊の声だった。



その声を聞いて、怒りが込み上げてきた。

それと同時に、胸が熱くなる。





「よく電話なんて かけれたもんだな。自分がしたこと、分かってるのか?」



『あぁ…分かってる。分かってるつもりだ。』



「なら、何で電話なんかしてくるんだよ!!俺が許したとでも思ったのか!?」



『………』



「…5年だぞ?

 彼女がお前に殺されて、5年も経ったんだ。

 なのにお前は…何一つ償ってないじゃないか…!!」




『…直人…』


「馴れ馴れしく呼ぶな!この、人殺し!!」



『………』






重い沈黙が訪れる。


顔は熱いのに、受話器を握る手はヒンヤリしていた。





自分の言ったことを思い返すことはない。


それが どんなに君を傷つけようと、どうでも良かった。



そのはずなのに、苦い。



   これは 何?







『…悪い…。

 声が…声だけ、聞きたかったんだ…』





俊のかすれた声が 沈黙を破った。



自分の怒鳴り声とは 対照的に、とても小さく、弱々しいモノだった。









熱が冷めて黙っていると、俊は数回 渇いた咳をして
『じゃあな。』と言って、
電話を切った。



プツッという音と同時に、背筋がゾクッとした。



これが、彼の最期の言葉になってしまうような気がして、堪らない。

だからって、様子を見に行けるわけがない。





あんな奴、どうなったって いいじゃないか。



殺されようと、病気で死のうと、それはきっと、自業自得なんだ。




そうだろ?


だって
  だってあいつは





どうしようもない男

    なんだから――





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