本編

□第九話
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ギャーギャー言っている間に、公園についた。




手袋代わりに使っていたグローブを1つ外し、俊に渡す。





俺は、俊から6m程距離を取った。





危ないので俊にサングラスを外すよう言う。



俊はダルそうにサングラスを取り、胸ポケットに仕舞った。






「よぉーし、行くよぉー!!」






声を張り上げる。



俊が手を振ったのを確認して、軽くボールを投げた。




ボールは緩やかな弧を描き、俊の元へと向かう。



俊の手が伸びる。



ボールは俊のグローブの中へ入ったと思った。





しかしボールはグローブの中に入らず、俊の顔面目掛けて落ちた。



ゴスッと鈍い音がした。



そして俊は倒れた。






「俊っ!!」





グローブを投げ捨て、俊に駆け寄る。



俊は左目を押さえていた。





「目にあたったのか!?」



「いや…大丈夫だ。」





俊は左目から手を離した。


目は真っ赤に充血している。



あまり大丈夫そうには見えない。





来る途中で買ったミネラルウォーターで目を洗わせ、左目を良く観てみる。



傷はなさそうだが、瞳孔がしっかり開いていた。





  こんな太陽の出た

  昼間だと言うのに






自分の所為だ。



そう思うと、胸が苦しくなった。



  自分が怖くなった







「ごめんな…俊…。」



「なんで謝んだよ。お前は悪くねぇーだろ。つーか俺ダセぇ〜。」





俊は笑ってくれた。



でも俺は笑えなかった。







     変だ。

  何かが可笑しい。




俊はあのボールを取れたはずだった。




まさか…あのボールが落ちて近付いてきた時、見えなかったのか…?






「俊、視力は?」



「あ?確か…2.0。」



「それはいつの?」



「1年…いや、2年前…?覚えてねぇ。」






1年や2年だったら、急激に視力が低下することは有り得る。





でも問題はそこじゃない。



何故俊は、取る寸前になってボールが見えなくなったのかだ。





俊は確かに、あの時ボールを取れたはずだった。




なのに取れなかった。





   そんなの…

  可笑しいだろ?







「直人、そんな考えんなよ。マジでただ取れなかっただけだって。」






俊はヘラヘラと笑う。





違う…本当はそうじゃないはずだ。



俊は明らかに嘘を付いている。




きっとそれは、俺に心配させたくないからだろう。






でもね、俊。



そうやって隠せば隠す程、俺はもっと心配になるんだよ?





それを知っていたら、君は本当のことを言っていたかな。




ねぇ俊、本当のこと言ってよ…。







俺はただ、そのまま俊の嘘に付き合うだけだった。









    なぁ俊

  君は嘘の塊だった





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