本編

□第八話
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    なぁ俊

  あの時からかな


俺達が崩れ始めたのは…








道でバッタリ組長に会った。



その時は丁度、1人で買い物に行ってたから俊はいなかった。





組長の回りをグルリと、サングラスをかけた男達が囲んでいる。



中心にいる組長は、俺にニッコリと笑いかけてきた。





「久し振りだな、少年。」





“少年”って…そんな歳じゃないんだけどな…。




俺は前回のことを思い出し、急いで頭を下げる。





「この間は座布団投げたり、怒鳴ったりして、スミマセンでした!!」



「この間…?あぁ、アレか。いや何、気にはしていないよ。」



「えっ、そうですか…。」





てっきり俺は、あの時の落とし前とやつを付けさせられるのかと思っていた。


少しホッとする。





しかし、この人と何を話せばいいのか分からなくて、更に不安になる。



あまり好きじゃないから、もうこの場から逃げ出したいのだけれども……

どうも組長に、そうさせる気はないらしい。



すぐに話しかけられる。





「俊は、どうしているかね。」



「元気ですよ。今は家で寝てます。」



「そうか…。」





一瞬だったけど、組長の目が優しい色に変わった。



それを見逃すことは出来なかった。




それはまるで、親が子の体の無事を聞いて、ホッと安心している時のような物だった。





この人は、俊のことを想っている…?





ふと、俊の苗字と組の名前が頭によぎる。



どちらも『岩泉』だ。



もしかして組長は、俊の父親なのだろうか…。





それにしては歳が離れすぎているように見えるけど…。



今度、俊に聞いてみよう。





「そんなに心配することありませんよ。大丈夫です。

 この前の傷も、大分治っていますから。それに自分、元ではあるけど…医者ですから。」




俺はニコッと笑ってみせる。


組長もニコッと笑った。





「そうだったな。」



「あぁ、やっぱり御存知だったんですね。私が元医者だったこと。」



「もちろん。俊が世話になっているからね。詳しく調べさせて貰ったよ。」



「調べた…?」



「君が医者を辞めた理由も知っているよ。」





個人情報って、そんなに簡単に調べられる事なんだ…と、思った。




焦ることなく、俺は何故か冷静でいられた。




それは、もうその理由に未練がないから?



もう、どうでも良くなってしまったから?







   残酷な俺は

   組長を睨む





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