本編

□第六話
2ページ/4ページ





“極楽ラーメン屋 昇天”



それは以前、俺が少しだけアルバイトしていた店だ。



俊を捜しに飛び出して以来、ここには一度も来ていない。


正直忘れていた。






店の名前を見て俊は、


「死んでどうする。」


と、いきなりツッコミを入れた。








“昇天”

それは天に昇ること。


つまり死ぬことだけど…

まさか俊がそれを知っていて、しかもツッコミを入れるとは思わなかった。





「名前は変だけど…美味しいよ。」



「…マジかよ。なんか、その笑顔が嘘っぽいな…。」



「大丈夫だって。俺食べたし。」



「じゃ、死ぬほど上手いのか?」



「いや、それはない。」





俺と俊は爆笑した。



まさか店の名前だけで、こんなに笑い合えるとは思ってなかった。



もう、このまま中に入らず、帰ってご飯作ろうかな。




しかし俊は相当お腹が減っていたらしく、自分で店のドアを開け、入っていった。






「ヘイ!いらっしゃい…って、直人君じゃないか!!久し振りだねぇ〜。」





店長の声が店に響く。


客は1人もいなかった。





「ごめん、おじさん…来るの遅くなっちゃって…。その、コレが捜してた“俊”です。」





俺は俊を紹介した。


俊は「何?」という顔で俺を見ている。





「ここで少しバイトしてたんだ。」



「へぇー。…何で?お前金あんじゃん。」



「老後のためだよ。」



「ふーん。」





店長はジーッと俊を見ていた。



俊は眉間にシワを寄せながら、店長を睨み付ける。




そして店長の眉間にもシワが寄る。



何故かいつの間にか、二人は睨み合っていた。






何故、険悪なムードに……!?


取り敢えず、俊を小突いて止めさせる。





「何すんだよ。」



「いや、お前こそ何してんだよ!なんで睨んでんだ?失礼だろ…!?」



「あぁ?睨んでねぇって。ただ…なぁ〜んか見たことあんなぁーって。でも思い出せねぇ。」



「気のせいじゃない?」



「そーだな。こんな普通のおっさん、何処にでもいるし。」




今度は鳩尾を肘で、思い切り突いてやった。



これで少しは黙っているだろう。




ほっとため息をつくと、店長の口が開いた。





「で、そいつを捜すのに何ヵ月もかかったんだなぁ。」



「えっ、いや…本当は飛び出した日に見つかって、つまり…店のことスッカリ忘れてたってことでぇ…。」



「やっぱりな。」



「えっ…」



「何となく分かってたんだよ。あの日の君の後ろ姿を見てさ。ここにはもう、戻って来ないんだろうなって…。

 だから、こうして来てもらえただけで嬉しいよ。」



「……。」







怒られも、冷たくもされなかった。



こんなに後になって来たのに、この人は嬉しいと言ってくれた。



あぁ、この人はなんて大きい人なんだろう。




俺もいつかは、こんな人になりたい…。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ