本編

□第六話
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俺は本当は絵描きになりたかった。



でも父が医者で、俺が医者になることを望んでいた。


期待には答えなければ。





だから俺は毎日毎日勉強して、医者になった。





患者をたくさん観て、自分の腕をあげた。


いつの間にか、いい気になっていた。


これで父が喜んでくれると。






でも父は褒めもせず死んだ。

過労死だった。





そして俺は手術に失敗して、それをきっかけに辞めるはずだった。



なのに俺は彼女に出会った。






彼女の名前は“里美”

それ以外は何もしらない。



彼女には名前以外の記憶がほとんどなかった。



どうしてそうなったのか、それすら分からなかった。



別に体には何の外傷もなく、健康そのものだったからだ。





そして彼女に『水色人間さん』と言われた。



そんな彼女が好きになった。


俺の色を変えてくれる、そんな気がした。








なのに…どうして俺は、あの日ちゃんと最後まで送ってやらなかったんだ?


そしたらきっと、違う未来があったはずなのに――――







「直人…直人。いつまで寝てんだ。」




俊の声がして目が覚めた。



あれ…?

今のは夢だったのか?



俺は上半身を起こす。






「今、何時?」



「7時50分。」



「朝の?」



「違う。夜だ。」





一体俺は何時間寝ていたのだろう。


時間を睡眠に費やしすぎた。


勿体無い…





いくら春になってウトウトするからと言っても、20時間近く寝るのは変だろ。


俺、どうかしちゃったのかな…。





違和を感じる腰を擦る。






「ごめん俊…ご飯は?」



「…食べた。

 当たり前だろ?子供じゃないんだ。自分で作って食べる事ぐらい、出来るに決まってんだろ。」



「そうだよね。」






俺はベッドから降りて、ヨタヨタとリビングへ向かう。



何か食べよう。



冷蔵庫を開けると、中は昨日と何も変わっていなかった。


何も減っていない。




俊は食べずに俺が起きるのを待ってくれていたのか…?






「俊。ラーメン食べに行こっか。」




「…おう。」






俺と俊は、外の世界へと出て行った。





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