本編
□第五話
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頭を掻きながらリビングへ行こうと廊下に出る。
するとバタンといきなり玄関の扉が開かれた。
俊が忘れ物を取りに来たと思った。
「何忘れたんだ?ちゃんと確認してから出ないとダメだろぉー?」
笑いながら俊を見る。
逆光で黒いシルエットしか見えない。
俺は目を細める。
「俊、今さ、洗濯機壊れちゃってさぁ…。あっ別に乱暴に扱った訳じゃないからな?
はぁ…またお金飛んじゃうよ。俺もそろそろ仕事しなきゃなぁ〜。」
動かない俊。
俺の足は玄関に向かう。
「?どうした?俊…?」
俊の肩を掴む。
すると俊は、そのまま倒れ込んできた。
突然のことで、俺の膝はカクンと崩れ、俊の体を抱いたまま座り込む。
湿っている俊の体。
汗…?
それとも……
ゆっくりと、俊を触った手を見てみる。
その手は真っ赤だった。
俺は何も言えなかった。
言いたくても喉に詰まって出てこない。
叫びも
君の名前も
ため息も
出てきたのは―――――
涙だけ