本編
□第四話
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いきなりバーンッと鍵盤を叩く音がした。
「キレイな音?どこがだよ!
こんなの全然ダメだ…違う…こんなの俺じゃない!!」
そんな声と共に、バンバンと鍵盤の音が続く。
俺は目を開けた。
俊は鍵盤に自分の指を叩きつけていた。
そんなに強く叩きつけていたら指を痛めてしまう。
「俊!やめろっ!!」
俺は俊の腕を掴んだ。
俊はズルリと椅子から滑り落ち、泣き出した。
「俺…もう嫌だ…こんな人生…。
どうして俺、やくざになんかなったんだ?
そのせいで俺はこんなにも…。
どうして…ピアノまで失わなきゃなんないんだよ!!」
「俊…。」
頭を抱えるようにして泣きじゃくる俊。
その姿はとても小さく見える。
慰めようと俊の肩をポンと叩く。
「俊、本当に凄く綺麗な音だったよ。汚くなんかない。
聞いてて思ったんだ。音は人の心を写し出すんだなって…。つまりさ、俊。君の心は綺麗なんだよ。じゃなきゃあんなに綺麗な音は出せない。」
言っててなんだか嘘っぽく聞こえてきた。
本当に、思ったままのことを言ってるはずなのに、そこに真実味はなかった。
俊はジッと、手を見つめている。
「この手で…俺は…俺は……」
カタカタと震える肩。
零れ落ちる涙。
彼の耳には、俺の慰めの言葉なんて、始めから届いてはいなかった。
「汚い…汚い手………」
そう言って俊は、俺の手から離れた。
それからポツリと、
「お前は俺に…触れたらダメだ…。」
と言って立ち上がり、俺の止める声も聞かず、外へ出て行ってしまった。
ピアノの鍵盤には、わずかに血がついている。
そして床に零れ落ちた涙
振りほどかれた手
俺は1人取り残されていた。
俊に何があったか知らない。
けど俊の心に大きな傷があることを知った。
「そんなこと…ないのに……」
俺は俊の手を綺麗だと思ったのに。
少しだけでも、俺はその手に見とれていたのに。
なのに、俺は俊に伝えることが出来ない。
この想いを届けることが出来ない。
君がどうして、そんなに苦しんでいるのかも分からない。
その日俺は
眠れなかった