本編

□第四話
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「ピアノだ…。」




俊はピアノに駆け寄った。



今まで家に何度も来ていたのに、気付いてなかったのか…。




俊はジッとピアノを眺めている。



俺はそんな俊に声をかけてみた。




「弾いてみれば?どうせ誰も弾かないし。」



「いいのかぁ!?」



返ってきたのは、俊の嬉しそうな笑顔だった。






俊はそっと丁寧にピアノのフタを開けていく。




「この部屋はずっと鍵かけてたから、音がちゃんと出るか知らな…

 あっ、そっかぁ…。」



鍵をかけていたんだから、俊がここに入れるはずがなかったのだ。



だからピアノのあることを知らないのは当然のこと。



そして、この部屋にだけ入れなかったのだから、俊が気にするのも当たり前。




そうか…それで俊はこの部屋に入ってみたいと言っていたのか…。


鍵を無意識に開けていた。





「そうだよなぁ…。」



「何が?」



「いや、別に…。ホラ、俊、早く弾きなよ。」



「おっ、おぅ…!」





俊はゆっくりと椅子に座った。


鍵盤に指を乗せる。


白くて長い指だ。


俺は少しだけ、その手に見とれていた。




すると俊が、急にパッとこっちを見た。




「ど、どうした。弾かないのか?」



「久し振りだから…下手でも、笑うなよ…?」



「うん、大丈夫。笑わないよ。」




俊はピアノに向き直り、フーッと息を吐いた。


それから大きく息を吸って、またピアノの鍵盤に指を乗せた。




俊は目を閉じている。





ポロンと、ピアノの音がした。



澄んだ音が、部屋に響き渡る。


最初は悲しいメロディーだったのに、どんどん楽しく、明るいメロディーへと変わっていく。




心が落ち着く音だった。



じわりじわりと体に、心に音が染み渡っていく。





俺も目を閉じて、ピアノの音だけに耳を傾けた。




するとピタッと音が止んだ。






「直人。」



俊の声がした。



目を開けようとすると、

「そのまま聞いてくれ」

と言われた。



俺は言われた通り、目を閉じたままジッとする。




重く沈んだ空気が体にのしかかってくる。




「直人、今のピアノ聞いて、どう思った?」



「えっ、すっごく綺麗だったよ?

“下手でも笑うなよ”って言ってたから、下手なのかと思ってたのにあまりにも上手だったから驚いたよ。」



「…キレイな…音…?」





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