本編

□第三話
3ページ/5ページ




俊が来るようになって、冷蔵庫の中には肉が溢れかえっている。



“サラダとカップラーメン”というメニューは消えてしまった。




カップラーメンが恋しい

肉のない世界が懐かしい





俺は冷蔵庫の扉をパタンと閉めた。




「今日はすき焼きだな。」



「マジ!?いよっしゃ〜!肉食いまくるぞぉ!!」



そう言って俊は、はしゃぎ出す。





すき焼きでこんなに喜ぶ大人、初めて見た。



いや、こいつを大人と思っちゃいけない。




俺はプッと笑ってしまった。







はしゃいで走り回ろうとしる俊を叱りながら、棚から鍋を出す。





白い大きな皿に、水々しい白菜や、鮮やかな色の人参、香り高い椎茸やネギ、真っ白な穢れを知らない豆腐、しらたき、お麩なでを盛り、テーブルの上に置く。




その食材を除き込む俊。




「おい!また野菜があんじゃねぇーか!肉だけでいーって言ってんだろぉ!?」



「体に悪い。ちゃんと野菜も食べなさい。」



「だって…マズイじゃん…?」



「はぁ!?どこがぁ!!上手いだろ!?」



「このヤサイ・バンザイ人め!!」




俊は訳の分からないことを言って、ベーっと舌を出した。






ちっとも大人にならない彼に、最初はイライラしていた。



けど今はこれでいいと思っている。


彼は大人にならなくていい

彼が子供だからこそ、今があるんだから…






グツグツと煮たつ鍋の中から目を離さない俊。




「おっ、肉焼けたぁ!」




俊はサッと手を伸ばし、肉を箸でつまむと、溶き卵にも通さず、そのまま口の中に放った。




そして幸せそうな顔をして、


「ん〜!!肉バンザイ♪」


と言った。




すると突然、俊は咳き込んだ。



ゴホゴホと苦しそうに咳をする俊。






最初は肉が喉に詰まっただけだと思っていた。



だから水をすすめた。




しかし俊は、まったく水に手を伸ばさない。


咳は止まらない。





そこでやっと変だということに気付いた。



物が喉に詰まったにしては、乾いた咳をしている。



これは普通の咳とも違うような…。






俺は俊の背中をそっと摩る。




「大丈夫か?どこか痛い所は?」



俊は咳をしながら、苦しそうに腹部を押さえた。





その位置からすると…



「胃か…。どんな風に痛む?」



俊はゼーゼーと呼吸をする。




こっちまで苦しくなるような音が耳に残る。



「分かんね…。とにかく…いてぇ…。」




苦痛に満ちた顔が目の前にあると、つい昔のことを思い出す。





   そして俺は

   トリップする





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ