本編

□第三話
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買い物袋をぶら下げながら、ゆっくりと紅葉の中を歩く。



赤や黄色の葉を敷き詰めた地面を踏みしめる。



ほぅっと、ため息が出るほど綺麗だった。





仔犬を連れた夫人が1人、横切る。


後ろからその仔犬に吠えられた。


少しビクついてしまったのが恥ずかしくて、速歩きで家まで向かう。



心地よい風が頬を撫でる。





紅葉から少し離れた所に、自分の家が見えてきた。




白い塀の向こうに見える藍色の屋根。

白い壁。



  まるで違う世界

  まったく違う景色





「…建て直そうかな。」




そんなお金がないことを無視して、本気でこの景色に合う家を考えていた。





扉の前まで来て、鍵をジャケットのポケットから出す。


買い物袋がカサカサと音をたてる。



鍵穴に鍵を差し込み、左に回す。


カチャッと音がした後、取っ手を握って回しながら引くと…



「ありょ?」



開かない。

ついでに噛んだ。




どうやら開けたつもりが、逆に鍵をかけてしまったらしい。




出る前に鍵は掛けた。


と、いうことは…考えるまでもない。




また今日も、あいつが来ているということだ。





俺はため息をつきながらまた鍵穴に鍵を差し込んだ。






「おかえりー。」



扉の開く音で分かったのか、寝室の方から声がした。


買い物袋をリビングの入り口に置き、寝室へ足を運ぶ。





中を覗くと、俊が俺のベッドの上に寝そべって、雑誌を見ていた。



当たり前のように。

ずっと前からそうだったように…。







部屋は見事に散らかっていた。



CDは出しっぱなし、雑誌は読んで置きっぱなし。


しかも俊が自分で買ってきたのであろう、お菓子のゴミが床にポイっと捨ててあった。




…また掃除しなきゃ…

って、本人させればいいじゃんっ!




「…後にしよ。」



ため息をつきながらリビングに戻ろうと体の向きを変えると、



「飯まだぁ?腹減ったぁ …死ぬぅ〜…。」



と言って、俊は読んでいた雑誌を床に投げ、ゴロゴロとベッドの上を転がった。




“なら、死んで見せろやっ!!”なんて物騒なことは、もちろんカケラも思っちゃいない。





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