本編

□第二話
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髪をくしゃっと握る。



昨日、今日の面接のために切った髪。



短くなった髪に、まだ馴染めないでいる自分。



夏だから、少しは涼しくなっていいかなと思ったのに、日が直接頭皮に差しているようで、あまり良くはなかった。





最近、いいことなんて無いなぁ…。


この間、家の中で10円拾ったくらいか。




でも結局その10円って、自分が落とした物だろうしなぁ…。


いいことなのかも分からない。

10円だし。







  つまらない自分

    寂しい家

  誰もいない部屋





スパイスの効いていないカレーのような人生。



ドロドロに甘いわけでもなく、味の薄いカレー。




そんな人生ってどんなだよ。

いや、こんなだよ。


って、1人でボケツッコミしてもなぁ…。





「はぁ…。」




今日何十回目かのため息をつく。


すると目の前を人が横切った。



その人を目で追うと、その先に人だかりが出来ている。





なんだろう…




少しでもスパイスが欲しい俺は、その人だかりに加わり、背伸びをして、やっと見れた。


あいつが。







 久々に会ったあいつは

 路上に捨てられていた






「俊…っっ!!」




気がついたら俺は路上に転がっている俊に駆け寄っていた。



「どうしたっ!俊っ!俊っっ!!」



上半身を起こさせて、体を揺する。




冷静になれず、体が頭よりも先に動いてしまう。




「さわ…る…なぁ!!」




俊が俺の手を払う。

力無く、弱々しく…





「俊…。」





ビリビリと麻痺している頭が、少し落ち着いてきた。




さっと俊の傷の箇所と具合を見る。



体中傷だらけで、出血も酷い。


縫う必要があるのは4、5箇所といったところだ。




あとは骨が折れているかどうかによる。


肋骨は…2、3本。

折れてはいないが多分ヒビが入っているだろう。




瞼が切れているが、眼球は大丈夫そうだ。



取り敢えず運ぼう。




俺は俊の体を抱えて歩き出した。




「何すんだ…!!」



「お姫様だっこ。」




平然と答えてやる。


もちろん足は平然となんてしていないけど。



腕なんて筋肉がミシミシいってるけど。



本当は走りたかったけど、歩くのさえ重さに耐えきれずガクガクと震えているので仕方ない。




余裕を見せなきゃと顔の筋肉だけ緩める。




そんな俺を、俊はジッと見ていた。





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