本編
□第一話
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血の色
黒い服だったからパッと見わからなかったが、よく見ると、腹部も同様に血で染まっていた。
「どっ何処か怪我してるんですか!?」
「うん。だからバンソーコ。」
「そんなんで何とかなる訳ないでしょっ!!」
男は何で怒鳴られたのか分からないと、眉をひそめた。
かなり出血しているくせに、男は平然とし過ぎている。
死にたいのか?
いや、そんな風にも見えない。
ただ怪我をし、ただ放っておいているだけ。
どうせ面倒臭いとか、そんなとこだろう。
彼は自分のことに無関心なのだ。
「傷、見せてもらいますよ。」
そう言って膝まづき、男の腹部に軽く触れた。
男は小さく唸って苦笑する。
「おい、普通傷口触るか?当たり前にいてぇーんだけど。」
そんなに痛がっているようでもないので、ボタンを引き千切り、直に傷口を見てみる。
「あぁ俺の一張羅っ!」と言う声が聞こえたが、それも無視する。
止めどなく流れ出る血
しかし、その傷口は丸く、さほど大きい物でもない。
他に外傷のない所を見るとこれは…
「はぁ…銃か…。」
こんな傷口、滅多にお目にかかる物でもなかったが、2・3人ほど、前に病院に担ぎ込まれて来たので見たことはあった。
あの患者はやたらとギャーギャーうるさかったなぁ。
そういえば、あの後通報したんだっけ。
そいつらの持ち物の中に銃があったから。
どうせ撃ち合いでもしたんだろ。
アレはきっと“やくざ”だ。
他にも薬物反応とか出たし。
そんなことを思いながらも後ろに回り、貫通しているか見てみる。
「おぉ…お見事…。」
丁度、真後ろに同じ傷口があった。
綺麗に貫通している。
位置から考えるに、内臓からは外れているようだ。
しかし、だからと言って、放っておけば大量出血で死ぬだろう。
命の危険に代わりない。
俺はマフラーとジャケットを脱いだ。
「あぁ…お気に入りだったのに…。」
呟いて、白と水色の縞々模様の長袖を両方とも、肩の縫い目から千切る。
まだ下に二枚着ているが、春の風は意外と冷たかった。
少し鳥肌がたつ。
次に、その両袖のなくなった服を脱ぎ、裂いていき、一枚の縦長い布を作り上げる。
その作業をジッと見つめていた男は、俺が両袖を折り畳み始めると、
「あんた医者か?」
と聞いてきた。
俺は作業を続けながら答える。
「はい。“元”ですけどね。」
「なんで辞めたの。」
「…」
手が自然と止まる。
気温が1・2度下がったような気がした。
俺は横目で彼女の墓を見つつ答える。
「…彼女を…助けることが…出来なかったんです…。」
彼女を助けることが出来なかった。
それなのに、どうして医者であり続けることが出来るだうか。
俺は彼女の命すら助けることが出来ないほど、無力なのに。
――それが
俺の考えだった