黒崎一護夢
□Chocolate Lilyyarn
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汚れまくった調理器具と、板チョコの紙パックの山。
その脇に何本も立っている、バニラエッセンスやシロップの瓶。
「ああ!黒崎!!本当ありがとう!!」
郁のチョコまみれのエプロンを見て、一護ははじめて“助けて”の意味を理解した。
「まさか、お前、これを俺に手伝えと?」
「そうそう!そうなの!チョコケーキ!!」
「…お前、人使い荒いなあ(笑)…。ま、いいや。手伝ってやるよ」
そう言いつつ、一護はボウルを手に取った。
チョコレートケーキぐらいなら、妹の遊子が
作っているのを見たこともあるし、手伝ったこともある。
「じゃあ、まず量りに、小麦粉」
郁が、感激したようにうなづいて言われたものの準備を始めた。
…そういえば明日は、2/14だっけか。
ぱたぱたと走り回る郁を見て、ふと、そんなことを考えた。
こいつは、誰にこれをあげるんだろう。
同じクラスの誰かか、部活の先輩か。
様々な考えが浮かんでくる。
俺もあまり贅沢言えねえけど…、
せめて、郁が焼いたケーキ、食べてみてえな…。
手伝ったのだから、其のくらいのワガママは叶ってほしい、と思った。
「黒崎ー!!焼けたよー!!」
しばらくして、少し離れたところから、郁の嬉しそうな声が聞こえた。
「そうか!」
「…あ、でも、ちょっと待って!」
郁はそう言って、何やらカサカサと
音を立て始めた。
「はい、これ。手伝ってくれたお礼!」
一護がテーブルに目を向けると、今しがた焼きあがったケーキと、ティーカップが置かれていた。
何となく、嬉しくなった。
「サンキュ。郁。」
一護は久しぶりに、にこ、と心底嬉しそうに微笑んだ気がした。
END