学園生活

□あなたの背中
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本当は、上京なんかして欲しくなかった。

でも、冬獅郎が頑張るって言うなら、私にそれを止める権利はないと思ってる。
だから笑顔で頑張ってって言えたら良いのに、私、卑怯だ。
そんなこと、出来そうに無いんだもの。
頑張ってねって言えたらいいのに、どうしても悪態をついてしまう。


自分の笑顔が、引き攣っていくのを感じる。

自分がどんどん汚くなっていくのも感じる。

どうすれば良いのか、正直、もう分からない。


***


「でも、俺は東京に行きたい」

そう言ったあなたの声が忘れられなくて、これ以上、行かないで、とは言えなくなった。
これ以上寂しいとも言えない。誰にも何も言えない。
私をずっと育ててきた母さんですら、私が本当はどう思ってるかなんて知らない。


***


この前、志望大を変えたよ、ってメールが来た。
昨日までの志望大より、少しレベルを下げた学校だった。
あなたの学力なら、合格も不可能では無いと思った。

でもそのとき、

本当に福岡には戻らないんだなって、確信した。


本当は応援してあげるべきなのに、卑怯な私は、メールの返信を拒んだ。
唇を噛み、そのメールを消した。

一時間後、心配してくれたのか、がっかりしたのか?って訊くメールが届いた。
何で、今更。やっぱりそのメールも無視して、結局、削除した。


***


そして次の日、いつからこんなに汚くなったんだろうな、と思いながら机についた。
手許に置いてあった英文法の参考書を開いた。
英語が苦手だと言っていた、あなたの顔が浮かんだ。


気付いたら、ノートが濡れてグシャグシャになっていた。


気分を変えようと携帯を開く。


"受信・冬獅郎"


…あなたからメールが届いていた。

今日も勉強が大変だったと、届いていた。


あなたの背中が、かつて無いほどに遠く感じた。
目指す場所が違いすぎて、もう、私の中の心の距離は離れていくばかりで、


どうしようも無くて、結局何もしないで寝た。



それで布団の中で、好きって何なんだろう、と考えた。

ずっと一緒にいたいと思えること?

相手を、心から大切な人だと思えること?

それ以外には大して浮かばなくて、考えるのはもうやめにした。
今の私には、重すぎる考え事だ。


***


ずっと一緒にいたいけど、でも、夢を追いかけてる冬獅郎の邪魔もしたくない。

何か矛盾してるような気がしたけど…でも、素直な気持ちはそんなところなのかも知れない。
でもどうせみんな矛盾点はいくらでも持ってるんだから、そこは気にしないことにした。


…だから、頑張って東京に行って欲しい。
応援してるから。













でも、本当は寂しい。















誰にも、言えないけど












 
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