みそにこみ

□シュラ誕12
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「気をつけて」
「ああ、行ってきます」
大体自分とやつとはこんな感じで一ヶ月ほど離れる。
別に止める理由もないし、相手も、止められるいわれはないと思うだろう。
仮に明日がどんな日だとしても。
「ふう」
閉じた扉をみて無意識にため息が出た。
やつがいなくなると大体そうだ。
一人の時間を取り戻した安堵から出るものだと思っている。
心にぽっかりと穴があいたように感じるのも、やつといるようになる前の正常を取り戻しただけであって、むしろ一緒にいるときが異常なのかもしれない。


明日は友人の誕生日。
何年もゴタゴタしててお祝いもままならなかったけど、今年はゴタゴタも済んでようやくちゃんとしたお祝いができそう。
軽い足取りで回廊を降りて、彼のいる宮に向かう。
簡素な住まいには、やはり同じように、飾りっ気のない彼がいた。
「ねぇねぇ明日は何が食べたい?」
彼はどこかぼうっとしていた。
いつもなら「何でもいい、適当で」とか言うはずなのに。
「……」
反応を待ってみたけど、一向に返答がないので、目の前のテーブルをコンコンと叩く。
「聞いてる?あれ、カミュいないけどどこ行ったの」
彼の恋人のカミュがいない。
通り道の宝瓶宮に居なかったから、てっきりこちらにいると思ったが。
「シベリアに、行ったみたいだぞ」
「は?」
彼が発した言葉に耳を疑った。
シベリアに行った?
恋人の誕生日の前日にシベリアに旅立ってしまったら、確実に祝うことなど出来ない。
聖域とシベリアとは何千キロと離れているのだから。
「明日はパエリアが食べたい、レモン乗せないで」
「何言ってるの?バカじゃないの、あいつ!!」
「あとは、そうだな……お前が嫌いだって言ってたスープも作ってもらおうかな、あいにく俺はあれが好物でな」
「シュラ!」
カミュの話などなかったかのように話し出す彼。
「せっかくだから、うまい酒を用意しよう」
楽しそうな素振りをしてるけど、嘘だってすぐわかる。
「あ〜!も〜!カミュだって知ってるよね、君の誕生日くらい」
「さぁ、知らないんじゃないか?」
「……ってか君、言ってないの?」
「聞かれてないし、言った覚えはない」
呆れた。
このカップルどうしようもない。
「二人ともバカ!!うわ〜お前たち何なの!」
「全く何なんだろうな、ははっ」
自嘲気味に笑うシュラは少しだけ悲しそうだった。
「……あのさ、ちゃんと言いたいことは伝えなよ」
「別にないが。俺はお前らに祝ってもらえる。幸せだ」
こいつは意地っ張りだ。
そうと決めたら簡単にまげてくれない。
だが、自分の希望や気持ちを相手に言えない臆病者でもある。
シュラが13年のゴタゴタを未だに引きずっているのは、彼が持つそういう部分のせいだと、私は思う。
「ほんっとにホントに。後悔するよ、あの時みたいに」
「アフロディーテ、その話はもうやめよう」
ほら、逃げた。
「……わかった」
「別に、不幸せなわけじゃないから」
「誕生日は、その日一日最高に幸せでなきゃ意味がないんだよ」
「また、取って付けたような」
「じゃあ、明日。またね」
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