special

□この広い宇宙の中で
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―カプセル小型タイプ回収完了―

―これより開錠作業に移行します―

―カプセル内のお客様は、そのまま静かにお待ち下さい―

そんなアナウンスが狭い中に響いてから数分。
蒸気が吹き出すようなフシューッという音と同時に扉が開く。
それからいくつか取り付けられていたシートベルトが自動で外されてわたしはすっかり固まった身体を伸ばしながらカプセルから出た。
視界に映るのは人工的な照明で少し目を細める。

「…はぁ、ようやく着いた。」

ボソリと呟いてみても行き交う人は皆知らない人ばかりで、わたしの言葉なんてまるでなかったかのように足速に過ぎ去っていくだけだった。
やっぱり、ここにいる人って皆忙しいんだろうな。

今乗っていたカプセルの更に内側からあらかじめ乗せておいたバスケットを取り出して、わたしもその部屋から出た。


部屋から出ると、途端に足が地面に付かなくなってそのまま宙に浮いた。
ぐらついた身体をなんとか立て直すと手摺りを頼りに前へと進んでいく。
時折ある大きな窓から見えるのは暗闇、…そして、近くで見ると輝かしく、迫力がある星々。
ここはスペースコロニーの内部。
はっきりざっくりと言っちゃうと、わたしは只今宇宙空間にいたりする訳です。

宇宙に関する計画が初めて持ち上がってから早くも1000年。
今となっては宇宙旅行にだって一般人が気軽に行けるような時代だ。
その分宇宙の神秘性が若干薄れてる気がしないでもないけど…でも、いつ地球が滅びるのか分からない今のご時世、そんなこと言ってられないのかもしれない。
半年くらい前にはついに火星の方で野菜やら家畜の育成に成功したっていうし…これは、もうそろそろ火星に移住するんじゃないかな。
そこまで考えて一人笑みを零した。
…そうしたら、きっとわたしは火星に永住しちゃうんだろうな。
だって、あの人は確実に地球にはほとんど戻って来られないから。
それなら、このコロニーから近い火星の方がわたしにとっては余程マシだ。

「…なんてね。何を考えちゃってるんだか、わたしは。」

「何が?」

「っうきゃあ!?」

突然背後から聞こえてきた声にびっくりして身を引くと、その元凶である人はおかしそうに笑い出す。

「ははっ、何その驚きよう。」

「い、いきなり背後から声が聞こえたら誰だってびっくりするよ! もう…心臓に悪いことしないでよ、啓太(ケイタ)。」

むぅっ、と眉をしかめながら言うも当の本人には全く効き目がないのかケラケラと笑うだけ。
えぇいッ、こういう時だけムカつくんだから…!

「あー、悪かったって栞(シオリ)。謝るからそんな顔すんなって。」

「啓太がそうさせてるんでしょ!」

「栞が毎回毎回懲りずにあんまり可愛い反応返してくれるもんだからついな。」

爽やかな笑顔でサラリと返してくる啓太に、今回もわたしは何も言えなくなる。
無意識でこういうこと平気で言うから余計タチ悪いんだよね…。啓太は確実に天然タラシだと思う。
……いや、これも全て計算なのかな。だとしたらどんだけ腹黒いのかしら。

宇宙空間での動植物の育成や栽培。
そういう関係の研究をしている人達の中でも啓太は飛び抜けて若手の部類に入る。
そりゃまだ23歳なのにもう現地任務してるんだもんねぇ。啓太の同僚なんてまだまだ地上でしか研究させて貰えないのに。
そんな出来の良い彼氏を持っていることは、わたしのささやかな自慢だったりする。

「もう…啓太っていっつもそんなことばっかり言ってるよね。
他の女の子にも言ってたりして。」

「ちょ、何言ってんだよ! そんな訳ないだろ!」

「っぷ、冗談だよ。」

まさか軽く窘める程度のつもりで言った言葉を本気に取られるとは思ってなかったので、わたしは思わず笑ってしまった。
必死になってくれちゃって…そんなんだから男の人にまで可愛いって言われちゃうんだよ。

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