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□ハニーポットとレモネード1
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――目が覚めて一番最初に思ったことは、”やっちゃった”だった。

別に比喩とかオブラートに包んだりとか、そんなこと全然していない。

文字通り”ヤッてしまった”のだ、あたしは。



「あー…人生で一番最悪な失態だわ、こりゃ。」



とりあえずむくりと起き上がると、目の前に広がるのは見慣れたアイツの部屋。

ベッドがまだ少し暖かい。それにこの水音――多分シャワーでも浴びているんだろうと大方の予想をつけてから、あたしはまだ痛む腰に眉を顰めながらベッドを降りた。

ベッドの周りに乱雑に散らばっている自分の服をかき集め適当に身に着けて、一階に降りる。場所を移動しても聞こえるのはシャワーの音だけで、他はまるで人の気配がしなかった。…なんて、アイツの両親は昨日から出張に出かけているのは既に知っている。(まぁだからこそこんな事態になっているわけなんだけれども。)

キッチンの冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを一口飲んだのと同時に、いつの間にか水音がしなくなった浴室からガチャリと扉の開く音がした。

視線をそちらに向けると、そこにいたのはまぁ当たり前といえば当たり前、不本意ながら昨夜一晩を大人の事情的な意味で共にしてしまった幼馴染の姿だった。

そいつはあたしの姿を視界に映すなり微かに目を見開いた。



「……もう、動いて大丈夫なのか?」



第一声がそれかよ、と心の中で突っ込みを入れながらあたしはペットボトルのキャップを締める。



「まぁね。…ていうか、そう思うんなら手加減くらいしたらどうなの。お陰さまで腰の痛みはマックスだっつの。」



毒づきながらペットボトルをヤツに向かって放り投げる。結構乱雑に放ったつもりだったけれど、ヤツは器用にそれを受け取った。…ち、惜しい。



「あー…悪かった。」



「…別に、もう過ぎたことだししつこくは言わないけどさぁ。カノジョ出来たとき上手く手加減出来ないと逃げられるよ?“沖口君最悪―”って。」



「…それは、お前も同じなのか?」



「……は?」



上手く聞き取れなくて首を傾げると、ヤツ――沖口は、”いや”と呟くように言いながらあたしから視線を外し、ミネラルウォーターを喉に流し込んだ。

その顔は少し苦笑の色を浮かべていて…変なヤツだ。言いたいことがあるならはっきりと言えばいいのに。



「…今日、なんかあるの?」



なんとなく流れた気まずい雰囲気を飛ばしたくて無理やり話題を変えた。

突然の流れに沖口はびっくりするでもなく、しれっと今日の予定を頭の中で整理しだした。(…こんの鉄面皮め。)



「部活、だな。今日の予定といったら」



「朝からあるの?」



「あぁ。」



ちろりと時計を見れば、時刻は六時半を指していた。

コイツが家を出るのが七時だとすると…後三十分は余裕があるか。



「朝ご飯食べたの?」



「これから食べるところだ。」



「作った方がいい?」



なんとなく、昔からの口癖で問いかけてみると、沖口はまた苦笑した。



「…いや、簡単に済ませるつもりだから大丈夫だ。それよりお前はもう少し休んでろ、真由。辛いんだろう?」



「別に、今すぐ倒れたいほど辛いってわけでもないけど。」



「無理させた手前、ここで更に注文つけるわけにはいかないからな。まだ動けるんならシャワーでも浴びてきたらどうだ。」



言いながらクシャッとあたしの頭を撫でた後、沖口はキッチンの奥へと入っていった。

こうなってしまってはあたしがここにいる意味はないんだろう。”ハイハイ”と誰に言うでもなく呟いてから、あたしは浴室へと足を運んだのだった。


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