Agnus Dei
□お題でお話
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人の通りもまばらになりつつある、元旦の明け方。
そんな中、未だ賑わいの覚めない神社にある社務所で、私達は漸く休憩に入る事が出来た。
しかし、大晦日から働き詰めにも関わらず、一人の巫女さんだけは不埒な方向に元気満々だった。
「今さらだけど、はっぴ〜にゅ〜いや〜ん♪さぁさ紗月おねぇちゃん、今のうちに姫始めといっちゃお〜」
「黙んなさいヘンタイ巫女!」
キャン!と小型犬のような鳴き声を上げて、巫女装束に身を包んだ少女、高梨珠深(たかなしたまみ)が地に伏せる。
私、上津遊紗月(かみつゆさつき)のビンタが相当効いたようだ。
ちなみに私達は、一年半前までは、同じ高梨の姓を名乗っていた。
彼女は、一年半前、病気で亡くなった私の夫、高梨葉調(たかなしはづき)の、たった一人の妹なのだ。
そして、今は私の――…
「もぅ。相変わらずおねぇちゃんのビンタ強烈過ぎ〜!…ん?どうしたのおねぇちゃん。なんかほっぺた紅いけど」
「ど、どうもしてないわよ。それよりも、元旦からハレンチなことばかり言うのおやめなさい!」
珠深と言う少女は、23時間体勢位の勢いで盛っている。
黙ってさえいれば、清涼感を模した美少女であると言うのに、その形の良い唇から発せられるのは、セクハラめいた言語ばかりだ。
しかも相手が、異性ではなく同性である私――おまけにかつて義理の姉であった私であるのも問題で。
高梨のご両親に何とも申し訳が立たない。
――でも、私の彼女への想いは、最早偽れなくなっていた。
だから、せめてもの償いとして、私も年末年始のお仕事を手伝わせて頂くことにしたのだ。
――いいえ。理由はそれだけに収まらない。
葉調さんが在りし日には、決して手を出そうとしなかった、神社――彼女達兄妹の、ご実家のお手伝い。
それは、クリスチャンである私には、罪を犯すのと変わらぬ行いだった。