斑シリーズ
□お題でお話A
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「だから何であのクソババァがよくて、この私がダメなのよ!!!」
ヒステリックな少女の声に、道行く人々の誰もが肩を震わせ振り返る。
そう、ここは人の行き交う街中。
しかし興奮状態の五月女弦瑠(そうとめゆづる)の目には、そんな人々の視線など映りこむ余地はなかった。
弦瑠の視線はただ一点、自分よりも頭一つ高い身長を持つ、目の前の女性にのみ注がれていたからだ。
女性の名前は、教楽木意織26歳。
弦瑠よりも8つ歳上のバリバリのキャリアウーマン。
――そして、離婚して今は別姓となってはいるが、弦瑠の38歳の母、桧野要の恋人。
弦瑠にとって、自分の母が彼女みたいな完璧な美女の恋人であることは、とても腹立たしいことだった。
「私の方が若いし可愛いのに、何であんなババァに拘るのよ!」
弦瑠は、意織が好きだ。
最初の内は高いプライドがぶつかり反発もしたが、その内自然に自分の中で白旗が上がり、彼女には及ばないと自覚した。
それは、自尊心の強い弦瑠が、初めて自ら負けを認めた出来事で、気持ちが恋へと変わるのはあっという間だった。
しかし、母に負けることは、それこそプライドが許さなかった。
弦瑠は、何をやるにもどんくさく満足に物事をこなせない母親が、大嫌いだった。