斑シリーズ
□お題でお話B
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窓には色とりどりの高層ビルと行き交う人々。
そんなバックグラウンドを構えたここは、オフィス街の喫茶店。
格子柄の壁を背にした最奥の席、私、教楽木意織は、三人の女性に囲まれていた。
彼女達は皆、同じ料理教室の先輩だ。
「だからね、私達は親切で言ってあげてるのよ。教楽木さん…いいえ、貴女だけじゃなく、桧野さんを心配してね」
品良く巻かれたクルクルの長い髪をかきあげながらそう言ったのは、ズラリと並んだ三人の真ん中の一人だった。
わざわざ椅子をずらし、両手に一人ずつ配置してるところを見る限り、きっと彼女が三人のリーダーなのだろう。
彼女達の力関係こそよく知らないが、一つだけ、確信できることはあった。
彼女達は、私と桧野さんの関係に勘付いている。
――事は、今から三十分程前。料理教室が終わって間もなく始まった。
いつものように、とろとろと片付けをしていた桧野さんをしゃもじでひっ叩き、さっさと家路に着こうとしていた所に、彼女達は立ちはだかり、如何にも意味深げにこう言った。
『貴女の大切なお友達のことで、お話があるの』
私の傍らにいた桧野さんを軽く睨みながら、彼女達がそう告げたものだから、私は深く追求せず、不安そうな桧野さんの頭を一撫でしてから、一人彼女達に従った。
あんな攻撃的な眼差しで、あれ以上、桧野さんの不安を煽らせる訳にはいかなかったからだ。
それに、話の内容もおおよそ見当がついていた。
だからこそ、桧野さんの耳に入れる訳にはいかなかった。
彼女達は、どうせ桧野さんを傷付けることしか言わない。
しかし敵もバカではないようで、先程から遠回しに親切ぶって、どうにか桧野さんを教室から追い出そうと話を持ち掛けて来ている。
私達が付き合っていると言う結論までの過程を、一体どう解釈したのかは知らないが、彼女達はどうやら、桧野さんが私をたぶらかしたと誤解しているらしい。
まあ一回り近くも離れているのだから、そう思われるのも仕様がないと言えばないが。
それにしても、自分達で直接桧野さんに言うのではなく、私から注意させようとするなんて、なかなか悪くない考えだ。
無論、従うつもりなんてさらさらないが。
労働基準法など、まともに守っていない会社で働く桧野さんとの時間は、大変に貴重なのに。
――これ以上、私に我慢なんてさせられると思っているの?