CCS二次小説の置き場

□Introduseは控えめに
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ピイッ…。朝練の友枝中のあちこちで忙しなく鳴り響く笛。顧問教師の合図と共に銀色のバトンが二回、三回と空を舞った。中でもより高く扱っているさくらが目を引く。いくつ目かの笛で集合すると、運動場に散らばっていた部員達はそれぞれの教室へ向かって歩きだした。

「木之本さんて可愛いよな〜。」
まだベレー帽を被って居る頃から学舎を共にする男子に度々出る話題。
小狼には気にしない風体を装い自然と耳を留める。朝のざわついた教室にはこういうヤル気に事欠かない。

―クロウカードを集めていた頃からさくらは…。
「俺、手紙書いてきたんだ〜。進級してから更に綺麗になったから、今が告白チャンスじゃね?!ウチのクラスをよく見てる気がするし!」
―…!
周りからおおお…と声が上がる。それは自分に向けられていると言えない小狼は表情や行動に出ないよう注意しながら、更に話題を拾う。
「廊下に来たら一番に渡すからな!放課後も邪魔しないでくれよ。」
仲間内に言い含めて、クラスメートは封筒を見せびらかした。ひとグループで沸き起こる冷やかしと羨望の混ざる喚声が物凄く不快だ。窓際から見下ろせば、当のさくらが千春や菜緒子達と昇降口をくぐるのが見えた。
気付くと小狼は微力な風華を召喚していた。突然起こったそよ風に吹かれて、封筒は偶然開いていた窓から校庭へと舞い上がり…ぽとりと水溜まりに落ちた。
「あ〜??」
「どうすんだよ〜?」
「ゲ…レターセットなんて持ってねぇよ…。」
予期しなかった事態に集団は慌てた。
―悪いな。
バトンや体操服を抱えたさくらが窓際の小狼に微笑んで行った。廊下に飛び出した手紙の主はさくらの後ろ姿に叫んだ。
「木之本さん!」
「は、はい?」
「好きです、付き合って下さいッ!」
「…は?…ほえぇぇ〜〜????」
カン、カララ…と取り落としたバトンが金属音を廊下に響かせた。
「返事は、クラブが終わった放課後!中庭の桜の木の下で待ってます!」
突然の申し出に呆然とするさくらのバトンを千春が慌てて拾い上げた。叫ぶだけ叫んで、クラスメートは教室へ戻ってきた。菜緒子がさくらの手を引いて教室へ入ると、廊下のずっと向こうから教師達の足音がしてきた。がらりと戸が開いて、興奮冷めやらぬ生徒に担任が着席を促すと皆が渋々席に着いた。

「…で、李くんはどうするんだい?」
どこかのクラスが授業で焼いたクッキーの香りが漂う食堂で小狼は山崎と昼食のおすすめランチを囲んでいた。広い部屋の中でも朝の…さくらへの告白の話題で持ちきりで、食事中なのに一々体が固まってしまう。
「もう大変さ〜。全校の話題だからね。木之本さんと同じクラスだけど、探りに来る上級生とか居るし…。」
話しながらも椀の中身は着々と減っていて、食べたり話したりで山崎は大忙しだ。小狼は箸を持ったまま一口も口をつけずに手をテーブルに落とした。
「李くんは口下手なんだし、ハッキリ皆に言わないと。」
「解っている。」
「ま、僕の役じゃないからね。千春ちゃんから木之本さんの護衛頼まれてるからお先に。」
空になった食器を載せたトレイを返却口に置くと、山崎は仲良しグループの護衛へと行ってしまった。
―当然、邪魔するに決まってるだろ!
小狼はスープを一口啜るとあまりの熱さに椀を置いた。
―邪魔するだけ…か?
色々な逡巡をしてから、はた…とどうでも良い事に気が付いた。
―山崎…アイツ…どういう味覚してるんだ?今も、かなり…熱いぞ?
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