CCS二次小説の置き場

□キミはハナミズキ
1ページ/2ページ

ぽかぽか陽気の4月 お気に入りの場所に私は座り込んだ ここは風裏だけど、お日さまは良く当たる 文庫本に挟んでいた栞を手がかりに読みかけのページを開けた
「悪いが俺には好きなひとが居る」
きっぱりと拒絶の声 どこかのドラマみたいだけれど、聞かない方が良さそうだ
「どうしても、ですか?」
「アイツじゃないと、駄目なんだ 他のひとを対象に出来ない」
居てはいけなかった?と文庫本を慌てて閉じるのと同時に相手が目の前を走り去った あまりのタイミングに唖然と見送ると、今度は告白されたお相手が通り掛かった
「李くん」
「何だ‥柳沢か」
やや閥が悪そうに口を開けた
「ん〜と‥あのコ、何人目?」
将来は小説家希望の菜緒子には興味深い所だが、小狼は
「いちいち覚えてない 俺はさくらだけが‥」
と言いかけて口を嗣ぐんだ 眼鏡の向こうの目はキラ‥と興味で光った
「山崎くんと千春ちゃんに比べるとまだまだだけど、二人とも長いよね」
「まあな」
「香港からさくらちゃんの為だけに戻って来たんだもんね 凄いよ 色々大変なんでしょ?」
「ああ‥ 方々に書類を提出したり、な」
さくらには見せない苦労を言い当てられて小狼は鼻の横を人差し指で軽く掻いた ポーカーフェイスを装う小狼も、よーく観察すればちょっぴりだけれど感情が判る 将来必要な観察眼は養われているようだ
「そういえば、さくらちゃんも呼び出されてたよ 確か‥ここじゃなくて‥体育館の裏だったかな」
「多謝、柳沢!」
聞きとるが早いか小狼はダッシュした 行く先はやっぱり彼の『たったひとり』なんだろう
―さくらちゃん、愛されてるねぇ 顔色変わったよ、李くん
修羅場っぽかった中庭は元通りのうららかさに戻った
―私いには相手が居ないけど、羨ましいねぇ 李くんがさくらちゃんに向ける優しい笑顔見たら、誰でも好きになっちゃうんだろうなぁ
ふう‥と溜め息ひとつ
―でも、これって‥何かに似てる‥
去年の先輩達が卒業記念に植樹していったひょろ長さの目立つ木 一緒懸命幾つかの花を枝に乗せて 低い枝は見れるけれど少し高い‥鉛筆みたいな太さの梢の花は見る事ができない
―そうそう、この木 帰り道にも良く見るんだよね
すいっと但し書きの杭を見ると
『第〇回卒業生一同』と達筆で書かれた反対側に木の名前が記されていた
―そっか、『花水木』って言うんだ
小さいうちは見れるけれど、手を伸ばす方向を定めたらそちらにばかり笑みを向ける その姿を上空から見れるのは、ほんの、偶然を得た者のみ
―さくらちゃんと李くんみたいね 良いなぁ!私もそんな風に想いびとが居たらなぁ‥
「柳沢さん、好きです」
―ほら、こんな風に‥‥‥?あれ?
「僕は貴女がずっと好きです」
不意討ちの台詞を菜緒子は理解出来なかった 目の前には何時も絶妙な位置を取り続けるクラスメートが顔を赤らめて立っている
熱烈な言葉が自分に発せられたものだと知って、ひと呼吸措いて返事をした
「私で良いの?」
「貴女が、良いです」
間髪措かずの言いきりに頬が染まるのが判る
―私は彼の『ハナミズキ』になれるのなぁか‥
「まずは、お友達からお願いします できたら『その先』も‥ね」

十年以上後に、雑誌の取材を受けカラーページで『理想の夫妻特集』の記事に取り上げられるのを‥二人はまだ知らない
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ