CCS二次小説の置き場

□誰か引く袖ぞ
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セレモニーでは市政に関わる議員や著名人の祝いの長い言葉の数々が、否応なしに大人の仲間入りを実感させた。くだけた場内のあちこちでは再会を喜ぶ声を上げ、瞬時に昔に戻る新成人の姿。懐かしい、同級生の顔ぶれ。
式典が終わった広い館内はエアコンの暖気をフル稼働しているのか、人だかりが均等に並ぶように見えた。
―ここって、こんなに寒かったんだ‥。
ふわふわと白い毛皮のストールを首から外すとより一層それが感じられた。
寒さだけ、ではない。現役の頃と違かうい目線も、学生にはまず使わない生花の数々も‥既に足を踏み入れるべき人間ではない事をさくらに感じさせた。
「さくらちゃん、思いきったわね」
黄に小花を散らした振り袖に濃紺の袴とブーツをすっきりとコーディネートした菜緒子が重苦しい雰囲気を破った。
「まさか振り袖を着るなんて、ね」
「ええ。私もてっきりチャイナを着られるか‥と‥」
濃紫に山桜の花を散らした柄を口に当てて知世はアップにした髪を揺らした。
「いやいや、実は何処か紐を引っ張ると早変わりで‥」
帯揚げをじいっと見つめる羽織袴の山崎に千春が身動きが取れないなりの動きで耳を引っ張った。
「迷ったんだけどね」
赤の絞り染めの袖の中ほどをつまんでさくらが微笑んだが、真後ろからの思いきりのいい大声に笑顔と体を強張らせた。
「木之本さん!」
「ほ‥ほえぇ‥」
「おれ、覚えてる? 一年生の時に同じクラスだった‥」
「やっぱ美人になったなぁ」
それぞれの思いを口に出す同窓生にさくらは些か閉口した。
「さっそくだけど、これおれの気持ちです!受け止ってください!」
ばっと差し出した掌にはきらりと光る小さなダイヤモンドが嵌められた指輪がちょこんと中央に鎮まっている。
「え、えっと〜」
返答に窮した姿を髪飾りが物語る。答えに衆目が集まるなか、際の反対側では、何故か下の方をみて驚く声があがっている。
「お願いします、給料、3ヶ月分です!」
「そう言われても‥はぅ〜」
困惑したさくらを止めたのは、垂れ桜の袖を不意に引かれたからだ。
「ほぇ?」
足元には目を潤ませて泣き出しそうな小さな一歳位の男の子。
「誰のだよ‥良いときに〜」
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