鳴門短編
□キミ不足が深刻です
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「ちょっと、何よアレ」
上忍待機所『人生色々』――
いつものように煙草をふかすアスマの隣に腰掛けた紅は、前方を指差しながら尋ねた。
眉間を寄せ、まるで汚いものでも見たかのような表情である。
「気にしたら負けだ。幻覚だ、幻覚」
紅の言う『アレ』を視界にチラッと入れた後、アスマは紫煙と共にため息をついた。
できればあまり関わりたくないのが現実である。
「ちょっと!そんな言い方はないでしょーよ!」
カカシだった。
どうやらバッチリ聞こえていたらしい。
互いにしか聞き取れないくらい控えめな声量で話していたつもりだったが、そこはさすが忍といったところだろう。
「まさかあんた、ユウカがいないからそんなことになってるわけ?」
目の前で項垂れるカカシに同僚の名前を出してやれば、彼は更に力なくソファに突っ伏した。
オヨヨと効果音が付きそうな泣き真似をする彼の足は、冷たい床の上で乙女座りになっている。
「いい歳した三十路男が、気持ち悪いのよ!」
「まだ三十路じゃないヨ!」
涙目になりながら嘘泣きを再開するこの男が木の葉一の技師、里の誉れだと、一体誰が信じるだろうか。
終いには待機所のソファに爪を立てて引っ掻き始め、くねくねし出す始末だ。
彼の口からは終始情けない呻き声が発せられている。
「で、ユウカはどこ行ったの?任務?」
「昨日から長期任務なんだとよ」
紅の問いに答えたのはアスマだった。
気のせいか、幾分かやつれたように見える。
まぁ、彼女が来るまでこんな状態のカカシを相手していたと思えば分からなくもない。
カカシにとってユウカという女性は、かけがえのない最愛の人である。
長期任務ともなればそれなりの危険も伴うわけで。
アスマ曰く、彼女を笑顔で送り出した直後からこの調子らしい。
「ユウカ〜早く帰ってきてヨ〜」
最早呆れてため息も出ない。
そんな2人の思いを知ってか知らずか、カカシは気を紛らわせようと愛読書を開いた。