木の葉の紅い狐
□第伍話
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七班との任務を終え、ユウカは家路に着いた。
スムーズに行けば夕方には終わっていたはずなのに、駄々をこねるナルトのお陰でこんな時間になってしまった。
報告を済ませ瞬身の術を使えば、一瞬で目の前には自宅のドアだ。
「何か用か?」
ドアノブに手を掛けたまま、ユウカはいつもより低い声でそう言った。
背後に感じた気配は2つ。
仲良くできるような者ではないことは明白。
ユウカは凍てつくような殺気を身に纏った。
「ヘヘヘヘヘッ、本当に居やがった」
「木の葉の、いや……」
「「裏切り者の黒崎ユウカ!!!!」」
自分に向けられた殺気が動いた。
瞬時に振り向けば、同じ顔をした忍が襲い掛かってくる。
起爆札の付いた無数のクナイを上に飛び上がることで避けたが、それは彼女の部屋を粉々に破壊してしまった。
「チッ、なんつーことしてくれてんだ」
爆発した部屋の残骸を視界に入れながら、ユウカは忌々しげに舌打ちした。
「死ね死ねしねシネ!!」
「兄貴の仇!!」
双子の敵は火遁の術を発動させ、ユウカに向けてそれを放つ。
「仇……裏切り者、か」
2人のセリフをポツリと呟くと、ユウカ哀しそうに笑みを溢した。
向かってくる炎の玉を避け、双子の後ろに回り込む。
素早く回し蹴りを食らわすと、その体を燃え盛る瓦礫の山に沈めた。
ポツポツと、雨が降り出した。
「ユウカ!!」
聞こえるはずのない声が、聞こえた気がした。
嬉しそうに目を弓なりにする銀髪の男の顔が脳裏を掠めたが、気のせいだと思い込んだ。
刀を抜き、燻る炎の中に揺らめく双子の影を追う。
ユウカは何の躊躇もなくそこに飛び込んだ。
「裏切り者……!!」
すでに消えかかっている炎の中で、双子の断末魔に顔をしかめる。
「お前さえ!!お前さえいなければ……!!」
「……うるさい」
双子の声を遮るように、ユウカは構わず刀で斬りつけた。
そろそろ暗部が到着するだろう。
そうなればこいつらを引き渡さなくてはいけない。
「原型は留めてやるよ、私は」
状況に反して恐ろしいくらい冷静な自分の思考に身震いがした。
引き渡した後にどうなるかなんて、考えなくても分かる。
少なからず彼らに同情しながら、ユウカは感情のない瞳で動かなくなった双子を見つめた。
死んではいない。
死んではいないが、きっと彼らにとっては今ここで絶命したほうがどんなに楽だったことだろう。
一命を取り留め意識が戻ると同時に、あのサディストのスペシャルコースが待っているに違いないのだ。
本格的に降り出した雨は、ユウカの体に付着した煤や返り血を綺麗に洗い流していった。