木の葉の紅い狐

□第壱話
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「早朝からすまんのォ」

「いえ、ご用件は?」


目の前に座る三代目火影への挨拶もそこそこに、カカシは本題を切り出した。

やる気のない目は、睡眠不足のせいかいつも以上に垂れ下がっている。

しかし彼を呼び出した張本人は、優雅にお茶をすすっていた。深緑色の湯のみからは湯気が立ち上っている。


「いやなに、お主にちと頼みたいことがあっての。入ってきなさい」


三代目は少しだけ声を張った。

自身に向けられたものではないそれに、背後の扉が反応する。

ゆっくりと開く扉の奥の知らない気配に、カカシは警戒心を強めた。


「どぉも」


にこやかな笑顔と共に姿を見せたのは、長い黒髪が印象的な少女だった。

緋色の結い紐で高い位置に一つに結われた髪は、毛先に少し癖があるようだ。
歩調に合わせて左右に揺れている。


「黒崎ユウカじゃ」

「ども、はたけカカシです」


カカシは小さく会釈すると、隣に立つ少女を見遣った。

肩口で切られた真っ白な着物に、真っ赤な帯がよく映えている。
二の腕までを覆う黒い腕巻は、白い縁取りが施されていた。

左腰には漆塗りの鞘に入った刀が黒光りしている。

帯に結んだ額当てが、彼女が木の葉の忍であることを示していた。

凛とした雰囲気を纏った彼女は、終始その顔に笑顔を張り付けている。


「…(なんだかなー)」


その表情に、カカシは心なしか違和感を感じていた。

笑顔にも関わらず、彼女は他人を寄せ付けない雰囲気を纏っている。

無意識に他者を拒絶しているように感じられる。
この笑顔は、それを隔てる壁と言ったところだろうか。



「して、頼みたいことなんじゃがの」


三代目の言葉に、2人は彼に向き直った。


「カカシにこの子の面倒を見てもらいたいんじゃ」

「は?」


思いもよらない依頼に、思わず間抜けな声を洩らしてしまった。


「ユウカは最近まで暗部一本じゃったんだが、表に出ることになってのォ。お主なら暗部の事情も熟知しておるし適任だと思うのだが、引き受けてくれんかの」

「……………御意」


ささやかな抵抗とばかりに流した沈黙は、老人の細められた目に黙殺された。

もとより火影直々の依頼を拒否などできないのだが、有無を言わせない火影の言葉に、カカシは了承の意を伝える。


「よろしくお願いします、はたけさん」


ペコリとお辞儀をして小首を傾げたユウカは、ニコニコと笑っていた。






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