木の葉の紅い狐

□第肆話
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木の葉の里からだいぶ離れた薄暗い森の中、鬱蒼と生い茂る木々の上から、ユウカは辺りの様子を伺っていた。

その身を包むのはいつもの白い服ではなく、暗部のそれだった。

目元と頬に赤くラインが引かれた白い狐の面が、彼女の素性を覆い隠す。

いつも左の腰に下げられている黒の刀は、今は背に備えられていた。


「(……見つけた)」


面の下の目をスッと細める。

ユウカの視界には、古ぼけた社がひっそりと佇んでいた。

緑色の苔と枯れた蔦が絡まるそれは、気に止めなければ見落としてしまいそうなほどに周囲の景色と同化している。


「(内部に気配はない、か。潜入するなら今しかない)」


木の上からユウカの姿が消える。



次に彼女が現れたのは、社の天井裏だった。

今にも崩れ落ちてしまいそうな社の天井裏は狭く、うつ伏せになった状態でほんの少し余裕があるくらいだ。

その隙間に、ユウカは自身の体を滑り込ませる。


たった今侵入したこの社はずいぶん前にその役目を終え、そのままこの場所に放置されているはずだった。

しかし近頃、ここに出入りしている者がいるのだという。

その証拠に、眼下の床には長年積もりに積もった砂ぼこりが踏み荒らされた痕跡があった。

足跡は1つではない。


「(少なくとも3人……)」


サイズや靴底の違いから、ユウカは冷静にその人数を分析していた。


出入りしている者達が何者なのか、目的は何なのか。

それを探るため、彼女は単独で社に侵入していた。
事と次第によっては暗殺もやむを得ない。


ユウカは静かに、社の主が戻るのを待った。






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