狼と修羅

□そのうち消える話。
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 恐ろしいぐらいゆっくりと、時間は動いている。白い青年には、そうとしか感じられなかった。
 場所は、小さく質素なリビング。青年は、その中央のテーブルの席に座っており、目の前には、資料を眺めている白髪の少年と、一匹の狼がいる。滅多に自分のところに、直接依頼しに来る人がいない上に、この年代の人が来るのは初めてだったので、青年は正直戸惑っている、という様子だった。
 暫くの沈黙の後、少年は出した資料を一通り眺め終えたのか、資料を閉じて顔を上げる。


「他に資料は、ありますか」


 歳に合わない、随分と大人びた表情と凛とした声で、少年は言った。声色だけが、年頃らしく、少し高い。
 青年は困ったように軽く俯いて、顎に手を当てた。


「うーん、これ以上の情報となると、手元に残せないような、危ないものばかりになるけど」

「構いません、幾ら払えばいいですか」


 淡々と紡ぐ、少年の揺るぎないその言葉に、青年は少し笑った。青年は、知り合いというには親しすぎる、ある少年を思い浮かべた。
 白髪のその少年は、微笑む青年を怪訝そうに見る。


「何か」

「要らないよ、そんなもの」


 青年の言葉に、意外そうな、驚きを含んだ表情で、少年は青年を見る。横でどうでも良さそうにしていた狼も、目を丸くさせていた。


「後で料金追加、とか、ありませんよね」

「……そういうところは、しっかりしてるよな」


 狼は小声で呟いていたが、少年はそれを無視した。


「構わないよ。その代わり、君の目的の内容を教えてくれたら、それでいいかな。もしかしたら、俺の仕事と関わりがあるかもしれない」

「分かりました。お互いに口外厳禁、ということでいいですよね」

「それが俺の仕事。情報に金は要らない。必要なのは、技術さ。……じゃあ、ここで十分程待っていてくれないかな、向こうで調べてくるから」


 白い青年は、儚く見えるような微笑みを浮かべて、席を立つ。そして、奥の部屋に向かおうとしたが、何かを思いついたようにくるりと振り返った。


「あ、あと、その場所から動かないでくれ。どこからナイフが飛んでくるか分からないから。君たちの血を掃除したくない」

「……分かりました」


 青年はそういうと、奥の部屋へ向かう廊下を、歩いていった。























情報屋と、仕事中の旅人の話。
2007/09/08 21:24
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