〜ドキドキ☆さばいばる〜

□絶頂の
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「遠藤さん。悪いんやけどこのバケツの水、かえてきてもらってええ?」

『このバケツですね?分かりました!』

「ん、おおきに」



サバイバル生活1日目。



私は山側のチームのお手伝いとして、このサバイバル生活を過ごすことになった。
とはいえ、親友の玲は海側のお手伝いだし、知っている人は皆無に近い。

イコール、すっごく心細い!


そういう風にスタートした私を見てか、綺麗なミルクティー色の髪をした白石さんという人が気を遣って私に色々と指示をしてくれるようになった。


白石蔵ノ介さんは四天宝寺中学校っていう学校のテニス部の部長さん。
昨日、船の中で忍足さんの従兄の忍足謙也さんと同じ学校だそうで。


(はー。昨日の忍足謙也さんと言い、白石さんと言い、大阪の人は良く気を遣ってくれるなぁ)


そんな事を思いながら、合宿所裏手にある井戸まで小走りで向かう。


合宿所に到着して、一先ず私たちは備品として置いてあった雑巾等の掃除用具で合宿所の掃除をすることになった。

だけど、それがなかなか大変なんだ。

合宿所といっても、元々精神面とかを鍛えるために最低限の施設しか整っていないらしくって、だから電気も通らなければ水道もないとのこと。


だからこうして私は井戸の所まで行って水を汲んでいるわけなんだけど…



『……あれ?み、水が、、中々上手く汲めない』


井戸の中にある水汲み用の桶が水面にプカプカ浮かんで思うように水が入らない。


なんだ、これは。


井戸自体が古いから?
桶がが古いから?

や、そんなわけないよね。


だけど、ロープを左右に動かして、えい、えいっとやってみるものの、やっぱり上手く水が入らなくて。


『む〜、ど・う・し・て・う・ま・く・い・か・な・い・のーー!』

思わぬ難関に戸惑ってしまい、一語一語に力を入れて闇雲にロープをガシャガシャした所だった。


「あー、アカンアカン。そないな風にやっても、上手く水は入らんで。ちょっと貸してみ。こうやるんや」


『あ…』


急に持っていたロープが軽くなったかと思うと、後ろから、とある人の声が聞こえた。


…声の主は、やっぱり白石さん。

やばい。水を汲むのが遅すぎるから、様子を見にきたのかも。
うぅ、こんな仕事すら思うように出来ないとか…、ちょっと恥ずかしいや。


『し…白石さん。あの、…すみません、仕事遅くて。…様子見に来てくださったん…ですよね?』


ロープを持って、器用に桶を操る白石さんの横で、おずおずと聞く。
そんな私を尻目に、白石さんはあっという間に桶いっぱいの水を汲みだしていた。


『はやっ!!』


「ハハッ、スマンな、遠藤さん。井戸の水を汲むのってな、初めてだと大体の人が苦戦するの忘れててん。
だからすぐフォローしに向かっただけで、別に遠藤さんが遅いから見に来たって訳ちゃうんや」


そう言いながら、桶の水をバケツに移す白石さん。汲みだされた水は、しばらく使っていない井戸だと思えないくらい透き通っていてとてもキレイだ。


『そ、そうなんですか?それなら良かったですけど…あの、気を遣って下さってありがとうございます』


良かった。
別に怒っている訳でも、呆れている訳でもなかったみたいで、一先ず安心。


とりあえずお礼を言って、ペコリと頭を下げると、白石さんは「ええよ」と言いながら、今度は悪戯っ子の様な笑みを浮かべて言ってきた。



「まぁ遠藤さん、ぽやっとしてるからな。もしかして井戸に落ちたんちゃうかと少しヒヤヒヤしてもうたわ」


『なっ!ぽやっとって…!
失礼なっ!確かに少しばかりトロいかもですけど、井戸に落ちたりなんかしませんよー!』


優しいかと思ったら、まさかの意地悪な一面!


「ハハッ、すまんすまん、嘘やウソ。ま、とにかく水の汲み方は分かったよな?
今後はこんな感じで宜しく頼むで」


『むむー…はい、了解しました』


「拗ねない拗ねない。ほな、掃除場所に戻るで?」


『あ…ちょ、待ってくださいー』



そう言ってバケツを片手に、爽やかな笑顔で合宿所に戻っていく彼を追って走り出す。




ミルクティー色の髪をした、1個上で関西弁のイケメン・白石蔵ノ介さん。



これが、私たちの出会いだった―…。
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