企画

□こんなにも、こんなにも
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どうして。どうしてなの。
貴方を見ているといつも思う。
一緒にいた時間なんて本当に僅かなものでしかないのに、貴方は私の中でとても大きな存在で。
貴方が楽になれる方法をいつも探している。


「ごめん」


無理だと分かっていたけれど、言わずにはいられなかった想いに、彼は予想通りの言葉を返した。
知ってたわ、貴方にとって「エル」がどれほど大切だったのかなんて。
貴方がいつも見ていたのは私じゃなくて彼女だったから。

彼の表情は酷く暗い。
当たり前よね。
大切な存在を一度に失うことになったのだから。

強く拳を握りしめていた彼は、やがて弱々しく笑みを浮かべた。
かつて英雄が使っていたとされる槍は今にも彼の手から滑り落ちそうだった。

ねぇ、やめちゃいなよ。

言いたい気持ちをぐっと堪えて喉の奥へと押し込む。
信じていた者に裏切られて、大切な人を失って、その先に何が残っているというのか。
言えばきっと彼は泣いてしまうから。


「俺、行くよ」


全てを知って、なおも戦おうとする彼は強い。
その小さな背中に一体どれほどの運命を背負っているのか、私には理解できない。

でも、それでも思わずにはいられないの。


ねぇ、泣いちゃいなよ。
そんな強がりの仮面なんて外して、泣いてしまえばいい。

ねぇ、アーク。
本当は貴方の悲しい顔なんて見たくないの。
でもね、泣いてしまえばいいと思う。
子供みたいに泣いて、全部吐き出して、眠って、そしてまた笑ってほしい。

やめちゃいなよ。
この忘れられた町にいれば、きっともう傷つくことなんてないし、悲しいことも起きないから。

泣けばいいのに。
やめちゃえばいいのに。

何を思っても、私じゃ貴方の救いにはなれないのだけれど。





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地表エルというより私視点といった方が正しい気がします。

最後まで立ち止まらない彼だからこそ、泣いてでもいいからどこかで鎧の紐を解いてほしいです。


お題:揺らぎ
2010.01.10

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