企画

□きみがみせた一粒の、
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それはなんてことない晴れた日のことだった。
比較的魔物が少ない森をロイドは一人歩いていた。
木々の隙間から射す木漏れ日はどこまでも優しく、彼は一度立ち止まりその光景に目を細める。


(たまにはこういうのも良いもんだな)


緑の中でそんなことを考えていると、ふいに近くからがさりと物音がした。
穏やかな雰囲気が一変し、ロイドの切れ長の瞳が鋭くなる。
彼は腰に掛けた剣を瞬時に抜くと、音が響いてきた方へと体を向ける。
何かの気配を感じるが、殺気は伝わって来ない。
相手はまだこちらに気付いていないようだ。
そのまま意識を集中させていると、それが魔物ではなく人の気配であることが分かる。
一応追いはぎの類では無いことを確認するため、ロイドは茂みからそちらを窺った。
そんな彼の目に飛び込んで来たのは、草むらに倒れている少年の姿だった。


「…ぼうず?」


知らない人間ならば放っておいたかもしれないが、生憎少年はロイドの顔見知りだった。
彼は条件反射で駆け寄り、臥せっている少年を抱き起こす。
見たところ怪我はしていない様だし、額に手を置いてみても熱があるわけではない。
ロイドが小さく首を傾げると、少年は気が付いたのかうっすらと目を開けた。


「おいぼうず、お前一体…」

「――腹、減った…」

「………………はぁっ!?」






なんであの時自分は少年に声を掛けてしまったのだろうかと、ロイドは頬杖をつきながら考える。
過ぎてしまったことは仕方ないにしても、目の前で大量の食料を消費していく少年を見るとそう思わずにはいられない。

あの後結局気を失ってしまった少年を担いで、ロイドは近くの町まで来ていた。
元々行く先も無かったので手頃な場所を選んだが、恐らく十代半ばであろう少年を担ぎながらの移動は中々に辛いものがあった。
魔物に遭遇しなかったのが不幸中の幸いである。
傭兵であるロイドはあらゆる戦闘手段に精通しているが、それでもお荷物を背負って戦うのは危険であるし避けるに越したことはない。
所詮生き残っていれば勝ちの世界なのだ。

しばらくして腹が膨れたのか少年は持っていたフォークを皿に置き一息ついている。
ありがとな、とにっこり笑った少年に、ロイドはどう致しましてと感情の篭っていない声で返す。
少年は特に気にした様子も無くグラスに注がれていた水を呷った。


「…で、ぼうやはあんな所で何してたんだ?」

「ぼうやっていうなよ! 俺にはアークって名前があるんだからさ」


少年――アークは不機嫌そうに頬を膨らませてロイドをじろりと睨む。
子供扱いされて怒るなんてまだまだ子供だな、と心の中で思いつつ、ロイドは話を戻した。
アークはしばらくの間目を泳がせていたが、やがて迷ってしまったと小さな声で白状する。
予想通りの答えにロイドは苦笑して、アークはごまかす様に話を変えた。


「そ、そういうあんたは何してたんだよ」

「俺かい? 別に何にも」

「?」

「…目的、なくなっちまったからな」

 
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