短編
□果てしない空
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「いい景色だな」
ロイドが視界いっぱいに広がる青空を眺めながら言った。
「こんな状況でなければな」
皮肉るように返したフィーダ。
そして彼女は渡り鳥が消えていった地上の方へと目を向けた。
空から見渡す大地は何の変哲もなく静かなのに、彼らが乗っている飛行機はけたたましい警告音や爆発音が鳴り止まない。
「まさかこんな死に方をするとは夢にも思わなかったよ。ま、あんたみたいな美女と一緒ならそれもいいか」
「生憎私はここで一生を終えるつもりはないんでな。死ぬならお前一人で死んでくれ」
フィーダは不敵に笑う。
そんな彼女の様子にロイドはつれないねぇ、と肩を竦めた。
制御装置を破壊した飛行機は、今はぎりぎり浮力を保っているようだが、それも長くは持たないだろう。
強く吹いた一陣の風が、巨大な機体を揺らしていく。
「中に入るか?」
「…いや、ここでいい」
頼りない柵に肘を置き、やはりフィーダは下を見つめ続けた。
ロイドはため息を一つつくと、扉の前に腰を下ろした。
どうやら彼も彼女に付き添うことに決めたらしい。
会話も無く二人はただ佇んでいたが、やがて飛行機の警告音が小さくなってきたことに気がついた。
「……落ちる、な」
「随分落ち着いているな」
「そっちこそ」
顔も見ずに言い合いながら、そういえばこうして言葉を交わす機会はほとんど無かったかもしれない、とフィーダは思う。
それにしては気安い相手だと感じてしまう自分がいて。
なんとも不思議な感覚である。
「なぁ、ロイド」
「ん?」
「何故か遠い昔に、こうしてお前と語り合っていた気がするんだ」
「……」
「おかしいか?」
フィーダがゆっくりとロイドに振り返った。
金色の長い髪が、風に舞って宙を泳ぐ。
「ああ…と言いたい所なんだが、どうしてかな。俺もそんな気がするんだ」
ロイドは立ち上がってフィーダの隣に並ぶ。
そして先程の彼女と同じように、眼下の世界を見つめた。
「フィーダ」
「なんだ」
「生きろ」
突然の言葉に、フィーダは言われなくてもと笑ってロイドに拳を突き出す。
ロイドもそれに答えて拳をこつりとぶつけた。
「お前も」
背後で一際大きな爆発音が響く。
「生きろよ」
警告音が、止まった。
end