短編

□綺麗な花を君に
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横暴な国王が亡くなってから数年経った今でも、自分は花を売っている。
いくら町が豊かになったといっても女の自分が働ける場所は少ないし、なんだかんだ言いながらも自分はこの商売が好きだったからかもしれない。

自分が売り物として扱っている綺麗な花は、少しばかり人里を離れた野原に咲いている。
元手はタダだし、それを売って明日の分のパンが買えるのならば、摘みにいくくらいの労力は安いものだ。

そんな理由で、あたいは今日も花を売る。





- 綺麗な花を君に -





ルワールの街に春の暖かな日差しが降り注いでいる、穏やかな午後。
花売りの女は宛もなく歩道を歩いていた。
道行く人に声を掛けてはみるが、今日は厄日なのか一輪も売れていない。

花売りを始めた頃からこういったことはよくあったので、女はあまり気にしてはいなかったが、やはり生活がかかっているため笑える話ではない。
人通りが少なくなってきたのと、歩き疲れたこともあり女は近くのベンチに腰を下ろした。
次いで口からこぼれ落ちる吐息。
腕に引っ掛けておいたかごは、家から出たときと何も変わっていない。

女はぼんやりと周囲を眺める。
コンクリートに埋め尽くされた道。
昔よりずっと少なくなった緑。
そびえ立つビルはそのうち空を支配するのではないかと錯覚する程に高い。
実際に指導者であるルイはよくやったと思うし、今も街を良い方向へ持って行こうと努力をしている。
結果街は豊かになったし、便利なものも増えていった。

しかし、変わっていく街を見るたびに、胸中では寂しいと思う気持ちが強くなっていく。
この考えはもしかしたらもう時代遅れなのかもしれない。
近代化が進んだこの街で、異質なのはもしかしたら自分なのかもしれない。
女は考える。考えた所で自分が何かを出来るわけではないが。

今時花なんて。

そう嘲笑う声は絶えない。
しかし買ってくれる人も確かに存在するのだ。
自分と同じように、いつも傍にあった自然を求めて、花を買う人が。
そうでなければ、自分は今頃とっくにお腹を空かせて死んでいただろう。

そういえば、と女は数年前の記憶を思い起こす。
当時、自分と同じくらいの年頃の少年に、むりやり花を買わせたことがある。
あと一本、あと一本と勧めて、最終的には持てなくなるまで買ってくれた少年。
ぶつくさ文句を言いながらもお金を出してくれたっけ。
あの頃の押し売りに比べたら、今の自分はだいぶ大人になったらしい。
お人好しな少年は、今もお人好しのまま青年に変わったのだろうか。

 
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