sweet misery
□夢から覚めても
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「あなたは、わかるの?」
風が気持ちいい。
耳に掛けた横髪が戻される。緩やかで、あまりにも爽やかで、じっと目を凝らして見ると微かに美しく色付いていると錯覚してしまう。
「うん、わかるよ。」
「ほんと?」
「うん。知りたい?」
目に見えるもの、肌で感じること。それに、心の中で思うこと。
すべてが今、わたしの周りで実際に起き、考え、感じているのは、疑いようのない事実。
「――それはね、」
それなのに。
アサはベンチから立ち上がると、わたしに手を差し伸べた。
わたしは不思議と、迷いや躊躇いなど一切なく、その手を握り返して腰を上げる。
「ここが、夢の中だからだよ」
温かかったのだ。
さっき触れた肩も、現在繋がれる手のひらも。
ここは、夢の中なのに。