sweet misery

□夢から覚めても
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「じゃあ、ここに来るのは初めてなんだ?」


男ははっきりとした口調でそう言った。首を傾げると、頬の高い位置、それも片方にだけ笑窪が出来た。


「そうです。えと…、あなたは?」


わたしは周りを見渡しながらそう聞いた。


「俺?……アサ。」
「アサ?」
「名前」
「ああ、いや、」


そういう意味じゃなくて。

みずみずしい緑が目に眩しい。見渡す限り、木々ばかり。空はペンキを塗ったような、なんていう形容がぴったりな青だった。
だから原色に目を細めたのだが、相手はどうやらわたしが笑ったものと勘違いしたらしい。にっこりと惜しみない笑顔をこちらに向けた。


「あの…、あなたは何度目ですか?ここ来るの」
「ああ。俺は二回目。昨日も来た」
「昨日?」
「うん、昨日は夕暮れだったんだ」


空を仰ぐ相手に釣られる。


「空。赤かったよ」


雲一つない、果てしなく青く続くこの空が赤かっただなんて。想像もつかない。アサと名乗ったこの男の言葉は信じがたい、と思った。


 
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