sweet misery
□メリーゴーランド
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『蛍ちゃん、ねえ、知ってる?』
『なぁに?ちぃちゃん』
『亀ヶ島のお話。内緒話だよ』
『内緒話?』
『そう。お母さんに聞いたの。だけどみんなには内緒なんだって。蛍ちゃんも内緒にできる?』
『うん、できるよ!』
『ほんとにー?』
『うん!内緒にする!あたし絶対ちぃちゃんの約束守る!』
『じゃあ一度しか言わないよ?あのね――』
夢をみた。
千鶴が右の耳元に唇を寄せて、あたしになにかを話し始めるのだけれど、感じるのは吐息。ふうふうと温かく吹き掛けられる、吐息だけ。言葉はない。
ちぃちゃん、なぁに?
聞こえないよ。ちゃんと声に出して言ってよ。
あたしにも教えてよ。
亀ヶ島の内緒のお話。
ねえ、知りたいよ――
「……おーい、蛍……、」
今度は吐息だけではなく、ちゃんとした声が耳に届いた。薄目を開け、飛び込んできた光景は、カーテンの裾から射し込む朝の光と。
「起きろーぃ。よだれ垂らしてんぞお前」
「……」
鉄也のどアップ。
よくもまあこうして毎朝やって来るよなぁ、なんて感心しながら、あたしは掛け布団で頭まですっぽり隠した。