sweet misery

□メリーゴーランド
2ページ/50ページ


『蛍ちゃん、ねえ、知ってる?』
『なぁに?ちぃちゃん』
『亀ヶ島のお話。内緒話だよ』
『内緒話?』
『そう。お母さんに聞いたの。だけどみんなには内緒なんだって。蛍ちゃんも内緒にできる?』
『うん、できるよ!』
『ほんとにー?』
『うん!内緒にする!あたし絶対ちぃちゃんの約束守る!』
『じゃあ一度しか言わないよ?あのね――』





夢をみた。

千鶴が右の耳元に唇を寄せて、あたしになにかを話し始めるのだけれど、感じるのは吐息。ふうふうと温かく吹き掛けられる、吐息だけ。言葉はない。

ちぃちゃん、なぁに?
聞こえないよ。ちゃんと声に出して言ってよ。

あたしにも教えてよ。
亀ヶ島の内緒のお話。

ねえ、知りたいよ――


「……おーい、蛍……、」


今度は吐息だけではなく、ちゃんとした声が耳に届いた。薄目を開け、飛び込んできた光景は、カーテンの裾から射し込む朝の光と。


「起きろーぃ。よだれ垂らしてんぞお前」
「……」


鉄也のどアップ。
よくもまあこうして毎朝やって来るよなぁ、なんて感心しながら、あたしは掛け布団で頭まですっぽり隠した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ