物語1
□クリフトと父
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なかなか彼女は帰ってこず、今度はブライ様が「勇者」という若者とその仲間たちと現れた。
・・・ブライ様は変わらずお元気そうだったが、その顔には疲労の様子がありありと出ていた。
私は、他の者には気付かれぬよう目礼し、ブライ様もそれに返した。
ブライ様方も洞窟に向かう、そのすれ違い様に、
「・・・クリフトはミントスの宿屋の主人に任せた。わしには戻らぬアリーナ様を探しにいく義務があるので・・・本当に、すまぬ。」
そう、囁かれた。
・・・私は、いてもたってもおられず、ブライ様方を見送るとミントスに飛んだ。
ミントスでは、クリフトが・・・。
あの時の、小さかったクリフトが、
あの時のマリアと同じような姿で熱にうなされていた。
・・・クリフト!
なぜ、お前まで、こんな目に!!
今まで、何人ものパテキアを求めるもの達に「それは天命だ」と諦めさせた。
その報いがお前にきたというのか。
私には、「親子の情」「家族の情」と言うものがわからなかった。
わかってたまるか、私は最愛の妻と子供と離れたのだ。
そう、思って生きてきてしまった。
しかし、今、目の前のクリフトの、なんと愛しいことだろう。
私の愛した、マリアが産んで育ててくれた、
私の子供。
私は、どんな批判や報いを受けようと、クリフトを必ず助けてやる。
そう決心した私は、ソレッタから持ってきた滋養強壮と熱に効く飲み物をクリフトに飲ませた。
少し、呼吸が楽になったのを確認し、クリフトの頭を撫でた。
こんなに、大きくなって。しかし、目の前の寝顔は、あの時のまま、
小さいクリフトのまま、
私と、マリアと、クリフトの三人で幸せに過ごしていた、
あの時のまま・・・。
私は泣きながら、魔力の果てるまでクリフトに回復呪文をかけた。
ガタッと、下の方で物音がして私は我に返り、
逃げるように窓からキメラの翼を放り投げ、城に帰った。
前回の、マリアの病を知ったときは、
私は、大臣や民の目を気にして、種を畑に蒔くことができず、
部屋にこっそり土を持ち込み、パテキアを育てた。
強い力をもつパテキアは、それだけでは養分が足らず、
成長が遅れてしまった。
そして、マリアは・・・。
もう二度と、「手遅れ」になどさせるものか。
私は、夜も明けぬうちから、国の一番良い土の畑を、蒔いてあった種をよけて耕し始めた。