物語1
□テンペ
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さっきまで、身だしなみだとか、お腹がすいただとか考えていた自分が恥ずかしかった。
そんな自分が知らないところで、自分と同じような年頃の女の子が、悪魔の生け贄になっていたなんて!
アリーナは、自分が許せなかった。
そして、ふいに、男と女の声が聞こえてきた。
「二人で逃げよう!今度は君が生け贄になんて・・・!僕は、君を愛しているんだ!」
「・・・仕方ないわ。村長の娘だからって、優遇されてたのも心苦しかった。私は、家族を見捨てられない。生け贄に、なるわ。」
クリフトは、この男の気持ちが痛いほどわかった。
愛する人を生け贄になど、誰ができるだろう。
自分も同じ立場なら・・・。
城にいるときは、そうは思わなかったかもしれない。クリフトは、自身の努力もあったが、努力しただけの見返りを得てきた。だから、努力しないものの気持ちがわからなかった。
しかし旅に出て、何度アリーナに回復呪文をかけたか。それは、自分がアリーナを守れなかったからだ。
段々強くなる敵に、自分の無力さを感じていた。
だから、逃げるという選択は、愛しあう二人には当然のことに思われた。
しかし、アリーナは、こともあろうに何の脈絡もなく、いきなり二人の会話に割って入った。
「私が生け贄になるわ!」
「!!」
「なっ、なにをおっしゃいます!!」
クリフトは、先の妄想が現実となったことに目眩を覚えながら、必死でアリーナを止めた。
「いけません!そんな、悪魔の生け贄だなんて!!」「そうですぞ!なんで姫・・・あなた様が身代わりなぞ!」
「大丈夫よ!私が、その悪魔をやっつけてやるわ!!」
「!!」
「ありがとうございます!!」
男は、アリーナの手をしっかりとにぎり、一目散にこのことを村長に告げに行った。
愛する女さえ救われればいい。それほど、男は女を愛し、この村は病んでいた。
村長が自宅から飛び出して、アリーナに平伏して感謝した。
「本当にありがとうございます!!私の娘の身代わりになってくださるなんて!!」
涙をながしながら喜ぶ父を、女がたしなめた。
「お父様!この方は、テンペの村の方ではないのですよ!関係ない方まで身代わりにしてまで、私は・・・!」
「わかっている。わかっているが、わしはそれでもお前に生きていて欲しいのだ!」
「大丈夫よ!私、強いの!!悪魔だろうがなんだろうが、この私がやっつけてやるわ!」