物語1

□神官クリフト
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神学校を主席で、かつ飛び級で卒業したので、クリフトはサントハイム歴代一番若い神官見習いになった。そして、難しい試験も見事合格し、晴れて神官となった・・・。それも姫付きの。

当然、その才能をやっかむものもいた。
神学校時代は飛び級のため、周りの級友も年上が多く、クリフトは心を許せる友人がなかなか出来なかった。
幼いクリフトの機転だけでは、どうにもできない陰湿ないじめもあった。
その度にクリフトは歯を食い縛り、これも自分が成長する為の糧なのだと言い聞かせた。
そして、何より、

「クリフト!今日は、ダンスのおけいこよ!」

姫様の学友として、アリーナと一緒に過ごせる時間が彼の癒しだった。
アリーナといると、さっきまでの殺伐とした気持ちや闘争心といったものがすっかりと消え、
本来の穏やかな自分に戻れた。  

アリーナも、自分との時間は格別に思ってくれているはず・・・。この笑顔は、自分だけのものだと思っていた。

しかし、成長するにつれ、お互いの立場というものがわかってきた。

そして、アリーナは、好き嫌いこそはっきりしているものの、男であれ女であれ、好きな人にはとびきりの笑顔を見せる。

クリフトはそれが、・・・とくに、自分以外の男にアリーナが笑顔を見せることか、悔しかった。

そして、気付いた。

(自分は、姫様に恋をしている)

しかし、報われないこともわかっている。

諦めようとするたび、またあのアリーナのとびきりの笑顔をみると、気持ちが揺らいでしまう。

いつしかクリフトは、「笑顔は、好きな異性以外にみせるべきではない」という、偏った思考の持ち主になった。

いくら自分が姫様しか目に入らないとはいえ、こんなにも周りからの女性達の熱をもった視線を感じていたら、気付かないはずもなかった。


今日も女の子達が集まり、声をかけようかどうしようかためらっている。
以前クリフトは、それが好意をもったものとは気付かず、うっかり答えてしまった。

その時の、女性の笑顔。 
しかし、クリフトにはどうする事も出来なかった。神官であることを理由にし、遠回しに断った時の、
女性の落胆。

クリフトは、本当に申し訳なく思った。

だから、なるべく女性とは関わらないようにしている。
今日のように女性がこちらを伺っていても気付かぬふりをし、無愛想を決め込む。

自分の想い人は、ただ一人なのだから。
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